※少しネタバレ有『擬傷の鳥はつかまらない』読了
時々夢想する、そうはならなかったけれど在り得た世界。
手に入らなかったもの。権利さえ無かった選択肢。選ばれなかった自分。思い出すたびに叫びたくなる後悔。
ここではない何処かに行きたいけれど、それってどこ?この本を読みながら、そんな事を考えた。
この世に絶望した者だけが行くことのできる、在り得た世界があったら行きたいか。永住するは別として、まあ行きたいよな。笑
でも今日までの自分を否定したくはないし、幸運な事に、今の自分だって悪くはない。そう思おうとしているだけかもしれないけれど。ジェーン・スーさんの本に書いてあった「自分が選んだ道を正解にしていくしかない」という言葉を、30歳を過ぎてからはよく思い出す。自分で、正解にするしかない。
荻堂顕さんの『擬傷の鳥はつかまらない』。新宿歌舞伎町を中心とするアンダーグラウンドな世界が舞台。SFでもあり、ミステリーでもあり、戦う者たちの話でもある。面白くて手が止まらず、2日ほどで一気に読んだ。引き込まれるストーリーだったし、読後ずっと考えさせられる。
今の世界は僕たちに「好きになること」を要求します。あるいは「嫌いであること」の放棄が正しいと見做されます。否定的な感情は否定され、肯定的な感情が肯定される。僕はその考え自体があまり好きにはなれません。嫌いなものが人一倍多い人間だからこそ、「ポジティブであれ」という空気には与したくないと思ってしまうのです。清らかで明るい「強さ」や「正しさ」の話は他の誰かが書くだろうから、僕は一生懸命なネガティブを書き続けたい。「こんな世界は滅んでしまえ」と思いながらも花に水をやるような、そんな小説を書いていきたいと思っています。
新潮社WEBより、著者インタビュー抜粋
本を読んでいると、あ、この人は信用できる、と思える瞬間がある。文章は長くなるほど嘘がつけない。荻堂さんの小説をもっと読んでみたいと思った。