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木曜の昼下がり閑静な住宅街の公園で、少年にクロックスをあげた話

僕はパンが好きだ。特にパン屋のカレーパンが大好きである。

コンビニの150円のカレーパンでも十分に美味しい。心から

「うまい!」

と思う。しかし、パン屋の200円のカレーパンはレベルが違いすぎる。

「おぉ、ゔまい!」

と思う。たった、50円贅沢をするだけで、感情の高ぶりの助走である「おぉ」に加えて、喉に響く濁点が追加されるのである。

僕は味がわかる人間ではないので、パン屋同士の味の違いは全くわからない。とにかく、どんなパンでも、パン屋のパンはゔまいのだ。

その日は、午前中の授業を終えたお昼時に、まだ一食も食べていないことに気づき、大急ぎで最寄りのパン屋に向かった。

僕は大抵、好物であるカレーパンと気になったパンを一つづつ買う。その日は、チョコ味のチュロスが気になりカレーパンの他にチョコ味のチュロスを買った。

その日のカレーパンは揚げたてであった。空腹に加えて揚げたてであることが重なり、僕は家までパンを我慢することができなくなってしまったのである。

僕はカレーパンを食べながら自宅に向かった。開放的な屋外でパンを食べるのはいささか格別であった。しかし、思いの外、僕の足が長かったせいか家に早くついてしまった。

今更、家の中でパンを食べることは粋じゃないぜと、思った僕はそのまま公園のベンチでパンを食べることにした。

公園には、僕の他に4歳くらいの少年が一人遊びをしていた。

少年は僕のベンチのすぐ横にある水道で遊んでいた。水道の出口を、親指で押さえて、遠く飛ばして遊んだり、ミスト状にして虹を作って遊んだりしていた。

僕は短パンにクロックスを履いていたため、少年が飛ばしてくる水滴をしばしば感じてはいたが、パン屋のパンにテンションが上がっていたため、微塵も気にすることはなかった。

少年は水遊びに飽きたのか別の一人遊びを始めた。それは、滑り台のタイムアタックである。その公園の滑り台は、いわゆる滑り台部分とは別に、ロープで壁を登ったりする遊具や、うんていなどが付属しているタイプの滑り台である。

少年は緊張感を出すために、すぅ〜っと息を吐き、スタートダッシュを決め、壁を登り滑り台を滑ってゴールした。その後、1、2回同様の流れで滑り台タイムアタックを実施していた。

ぼーっと少年を眺めていたら、少年の滑り台タイムアタックに革命が起きたのを目の当たりにした。

それは、本来ならお尻で滑る滑り台を、壁を登った流れでダッシュで駆け降りるという方法である。

滑り台駆け降り戦法を考えついた少年は、どんどんタイムを更新していった。

僕は少年の成長をちびちびとチョコ味のチュロスを食べながら観察していた。

しかし、平穏な日常は、ほんの少しの気の緩みで崩壊する。

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