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彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話㉑「許し」


6月は夜の仕事もがっつり入れていたり、昼職の契約満期を月末に迎えていたりとでとにかく多忙だった。
心身共に限界間近だったため、新しい仕事が始まるまでの1週間は実家に帰省して過ごした。
そして、7月はまるまる、夜の仕事をお休みさせてもらった。

7月1日、またしても彼から連絡が入る。

「すみません今週中に振り込みます」

「わかりました。大事な連絡ありがとう。
 待ってますね。」

「ごめんね」

支払い遅延の報告だったが、これも今までなかったことだ。
「今週中」という目途もあり、
彼の誠実とも思える対応が続いていることに安心感がわく。

そして、6日後。

「ごめんもう少し待ってください」

少し、もやっとしてしまった。
(もう少し、っていつだ?)

これまでも相手は、お金の支払い期日について、「もうちょっとだけ」「もう少し」等の表現で先延ばしにしていたことがある。

明確でない表現に違和感があり、こちらは「何日か明確に決めてほしい」と主張してきた。
それでも曖昧な回答をする場合、彼に対し計画性がないのだなとも思うようになった。
だが、この数か月はきちんと続いていた為、ここでまた振り出しに戻る(=曖昧さを許す)わけにはいかないと思い、私の方で指定した。

「わかりました
 6月返済分は7月10日までお待ちしますので、それまでにお支払いをお願いいたします。」

私は期日指定のメッセージを送ってから、指定日まで彼とのトーク画面を見ないようにした。
だが、指定した期日の前日、ふと気になりトーク画面を開いたが、未読のままだった。
既読であれば、=了承したと解釈してもいいが、未読のままという場合、内容確認はしているが納得していない部分もあるのだなと考察した。

私は、できるだけ柔らかく、彼に確認する。
「〇〇ちゃん、
明日って送ったけど、大丈夫そう?
もう少しってどのくらいかなと思って」

すると、翌日、振込完了のスクショ画面のみが送られてきた。

読者の方の中では、私のぶっ飛んだ思考回路に(なぜそうなる!?)と思う方もいらっしゃるかもしれないが、私はその時、直感的に「他に好きな子できたな…」と感じた。
当時の私の精神状態は、良い出来事も増えてきたとはいえ、まだまだ不安定さは残っていた。本当にやっかいな精神状態だったと思う。

私は過去、彼と言い合いが続く中で、こんなことを言った。

「あなたのメンターが見つかるといいね」

この発言は嫌味でもなんでもなく、彼と私、2人だけが話し合ってもどうにもならないし、私の言葉が届かないなら彼が「変わりたい」と思えるような存在に出会うしかないと思ったのだ。

その過去の自分の発言が蘇る。

私はまた勘違いしていた可能性に気付く。
彼から急に期日内返済が始まって、私は心のどこかで自分の思いが伝わったと思ってしまっていた。
遅延報告もきちんとくるようになった、だが、もしかして、電話督促をされると困る状況にあるのかもしれない。
出会った当初の彼を思い出す。
あらかじめ、自分の不遇な境遇を話す。お金問題を含めて。
だが、「俺がやらなきゃ」という姿勢を私に見せ、借金返済に力を注いでいたのは事実だ。
あわよくば、助けてもらいたいと思って近づいた部分も、ないとは言い切れないが、私が好きなアームカバーをプレゼントしてくれたり(ちょっと変わった贈り物だが相当嬉しかった。)、お金を貸す前の彼の行動や言動から、少なからず愛情を感じる時もあった。
彼は、また新たに好きな子ができたことで、頑張り始めたのでは…

お互い、自分に甘いところがある。
誰か自分を励ます人が側にいないと、力を発揮できない、なんてこともある。

私の場合は、友人、職場の人など、「彼氏がいないと!」という感情は特別持っていない。
だが、彼の場合は「恋愛」することで特に力を発揮する男なのかもしれない。

ここまで思考が働くと「これは確信だ!」と思ってしまう当時の私には妄想癖チャンピオンの称号を与えたい。
そんなおふざけはさておき、この確証もなにもない考察が、自ら気を狂わせることになる。
そして、お金だけの関係として割り切るのであれば、彼に好きな人ができようができまいが、関係のないことだと思えるはずだ。きっと、私も「所有欲」「独占欲」の強い人間であるし、矛盾しているのだ。

私は、またしても「占い」に確証を求めてしまう。
初めて鑑定依頼する占い師(霊視的な)だった。時間は15分。

そこで、あっさりきっぱり、こう言われた。(ちなみに、他に女がいるのでは…という憶測は伝えていなかった。)

「返済は他の女性のために頑張っている。残念だけど、あなたは2番目です。彼はその子にべた惚れしていて、あなたからお金を借りたことも話している。肩甲骨くらいの長い髪、真っ白いワンピースが似合う子。そこで私と付き合うんだったらお金を返せとこっぴどく叱られ、その子を手に入れるために返済に力を注いだ。でも、彼はその子に出会った頃のあなたを重ねており、それについてもその女性に指摘された。付き合っているわけではなく、返せない額の借金をしたと彼も理解しているので、今回の恋愛も無理だろうなとほぼ諦めている。彼の方から、こんな俺でもいいですかとくる可能性はある。だけど、あなたもう幸せになっちゃってる!」
「占いやってて、こんな複雑なケース初めてだよ。出会った頃のあなたが相当好きだったんだろうね。今も愛情がでちゃってる。でも、お金のことを考えると無理だと思っちゃっているから。」

愛情だが、なんだかは頭に入っちゃいない。
私は他の女性のために頑張っているというところで、自分の予想的中だと、たった「占い」の情報と自分の「妄想」だけで、「現実」としてしまった。
彼とのこととなると、現実と妄想の境界線が曖昧になってしまう。

彼とのコミュニケーションはほとんど「LINE上でのメッセージ」だ。
話がかみ合わないこともたくさんあったし、感情が読みとりづらいことも何度もあった。
メッセージというのは相手の気持ちなど、見えない部分を想像してしまうので、適度に直接の関わりがないと、自分の中で勝手に相手像を作り上げ、決めつけが起こる。歪みが生じるのだ。

私の歪みは加速する。
自分で確証を得たくて占いを頼ったにも関わらず、自分の「妄想(憶測)」と結果が一致したことで、プチパニックになってしまった。占い結果を思い出し、過呼吸にもなり、突然号泣し出す。
「いつ、ダイブしようかな」何度も窓の前に立つ。まさに、精神崩壊。

H氏に連絡を入れた。
「自分をどう取り戻せばいいかわからずパニック」
確かそんなメッセージでSOSを送った。本音は死にたくないのだ、私は。

H氏は知識豊富だった。
私のこのパニック現象を、丁寧に言語化し、紐解いていく。

その中で、これまでの私の答えとなる言葉をかけられる。

「自分がいると思えるのは、対象がいるからでしょう?」
「この「縁」によって、定義できているからみこは存在出来ている訳」
「存在意義を、彼に渡しちゃったから、
こうなったんだよ」

「存在意義を彼に渡した」

この言葉が頭のなかで、反響する。

私は、自分が彼にしたことへの正当性を確かめたくて、安心感を求め、占いに依存していた。

私は、愛情を与えることや心の支えになれるという自信を、彼に証明し、認めてほしかった。
だから、彼に厚かましい連絡を送る。

彼にとって、信用できる相手になれなかったことの悲しさ。

私は、彼のことを好きではないのかもしれない。

今まで、
「なんだかんだで好きなのかも~」と話している自分に違和感はあった。
だが、この感情は好きか、嫌いか、ではないとも思っていた。

ありのままの自分が受け入れてもらえないのであれば、柔軟性を生かして彼の要望に応える。彼の要望に応えることで、寄り添うことで、「できる」自分という存在をアピールする。

「自分」という人間が、彼に認められなかったことが、貸したお金よりも遥かに上回って執着となり、自分の心と思考を占めていたのだ。

私は占い師との出来事があってから、自ら取得したストレス(自虐)で、2週間ほど水とタバコしか口にしていなかった。
身長体重は日本女性平均値をキープしていたが、太りやすく、痩せやすい体質だ。
食べない事でげっそりと痩せた。
歩くだけでも息切れがする。

ぼーっと、思考停止。
何をするわけでもない、ただ、急に涙は出てくる。

そんな状態でも、誰かと話したい気分になった。

ここで、またしても、占いか!という感じだが、
以前から利用しているセラピーを受けた。
占い師でもあるSKさんだが、この頃の私と話す時はほぼ人生相談だった。
経験豊富かつ、時に厳しく叱ってくれる。優しいお姉さんである。

そのSKさんにも、これまでのことを話す。

「あらら!妄想で苦しんでるじゃーん…」と、ド正論。
「でもね、こんな占いの結果に振り回されているような女やだよ。」
「占いなんてやらなくても平気なくらいが普通なんだから。」

と、続けてSKさんご自身の話、どん底から這い上がった経緯について話してくれた。
これはぜひ、SKさんご本人から聞いてみてほしい。

SKさんとの話の中で、どん底時代は誰しも部屋が汚くなるのだなと、思った。
シンプルだが、まずは掃除をしようと少しやる気をいれる。

私は、床の汚れたワックスを剥がしていく。
相当、汚してしまっていた。3時間くらいかけて、フローリングを雑巾がけし、シンク下の整理整頓もした。
とにかく無心。だが、頭では彼とのこれまで、この2年間で何があったかを振り返っていた。

ただ、これまでと違うのは、「自分が彼にしたこと(言動・行動・態度)」に徹底的にフォーカスを当てた。
自分を正当化しようと必死だったこれまでだ。
自分の足りていない点、マイナス面に目を背けていてはならない。

1,2か所を徹底して掃除することが体力の限界だった。

私は、本を何冊か購入していた。
野末武義[著]「夫婦・カップルのためのアサーション」という本である。

私は、彼と、ある友人から、メッセージの言葉がきついと指摘されることがあった。
私は、自分が異性相手にかける言葉や、コミュニケーションのとりかたをこの本を読んで、学んだ。
読んだ本については、また別でまとめたいが、とにかく、この本を読んだ時に涙が止まらなかった。

感動エピソードが記されているというわけではないが、幼少期の父親とのコミュニケーションについてが、自分のことのように思えたのだ。

私はのめり込むように本を読む。
本を読んでいく内に、彼と私が根本的な違いが自分の中で明確になっていく。

これはあくまでも、「仮」の話となるが、当時の私にとってはこの思考が、彼との関係の落としどころとなった。

お金を借りることに、もはや慣れてしまっている相手。
返済の計画性はない。なぜなら、「どうにかできる」と思っているから。
ふざけているのか?と、理解が難しいかもしれない。
しかし「どうにかできる」という根拠のない自信があることで、「計画」なんて不要だ。
「当たれば」いいのだから。
そして、その瞬間、その場で味方をつける能力には長けている。
だが、持続性はない。忍耐力も。人の心と向き合う術が足りていなと考える。
ここがだめだったら、また次を探す。「当たる」までその繰り返し。
自分はこんなもんじゃないというプライドもあるだろう。
認められないのであれば、自分を気分よくしてもらえる場所、相手を探す。
そして、当たったら、持ち前のセンスを生かして一花咲かせる。
人生がギャンブルのような生き方だ。

この「当たる」というのは、「経済力に恵まれた女性(男性もしかり)」を示している。

彼はもう、自分で働いて、お金を稼ぐことは今はしていないのかもしれない。
誰かに経済的に支えてもらうことで、精神的つながりにも直結する。
損得勘定で生きている。
彼だって大層な依存心があるではないかと思った。

やはり、付き合っていた期間がある間柄で、
お金を借りようとすること、
他者の名義を使ってまで消費者金融に借りてもらおうする姿勢。

本当に、まともじゃない。
住む世界が違うと彼が言ったのを思い出した。
ある意味、彼の方が先に気付いていたのかもしれない。

私は落としどころをずっと、彼を通して得ようとしていたが、
ここにきてやっと、彼との「違い」と彼がしてきたことへの恐ろしさに気づいた。

だが、そうしないと、生きていけない。

それが、今を生きる方法だと信じている。

そのやり方でないといけない理由が、彼にはあるのだと思った。

私もなかなか、まともじゃないが、
心の中で、
彼の生き方を認め、肯定できたことで、
彼に対しても、自分自身に対しても、
すべて「許そう」という気持ちが芽生えたのである。


ラスト㉒に続く♡


【あとがき】

前回、ジンベエの話をしたが、「無いものは無い」これが真理だと思う。
当時の私は、必要以上にあれやこれやと相手の見えない部分を想像し、彼を可哀想な子だと労わる日もあれば、詐欺師だと思い込み、強い言葉をぶつけることもあった。
自分の想像や決めつけで、彼と関わることが多かったことに気付く。

彼の連絡がない=大変な状況下にいるのでは?事件や事故に巻き込まれた?
彼の返済がない=逃げようとしている?雑に扱っても問題ないとで思ってる?

「無いものは無い」のだ。


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