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彼に貸したお金が「高い勉強代」になるまでの話⑱「彼の変化と新たな金銭トラブル」


ダブルワークを始めて3か月。
シフトをがむしゃらに入れ、なんとしてでもお店に貢献をしなくては、という一心で働いていた。

きっかけは、経済的なこと、自分磨きのためにと初めていたはずだが、いざお店に立つと、「誰かのために頑張る」という気持ちに変わっている。
ママのため、同じ席に着いた先輩のため。勿論、お客さまのため。
うーん。なんだか、今の私はこの当時の熱意に違和感を感じる。

根底に、「誰かに認められたい」という思いが強かったのかもしれない。
常に120%。必死だ。

自尊心の復活を、他者に求めてしまっている。
確かに、人からの評価というものは自分を知るうえで大事なことだと思う。
ただ、この時の私はまるで「私をわかってほしい」という、ある種の依存心が強く表れていた。


そんなこんなで5月下旬に、
記念すべき出来事が起こる。

なんと、
初めて彼から期日内に返済がなされたのだ!


正直、驚いた。


とても、驚いた。



なぜ?急に?どうした?何があった?

色々聞きたい思いではいたが、
お客様からの言葉を思い出す。

「男が黙って金だけ入れてるなら、
 余計な詮索はするな。」
「大丈夫、最後はきちんと帰ってくるんだから。」


私は、舞い上がる気持ちを抑え、「びっくり!助かりました!ありがとう!」とだけ送った。



心は浮かれ模様だ。
これまでのストーリーからでは想像がつかないほど、大きな進歩なのだから。

だが、これでもういいや!許そう!と投げ出すわけにもいかない。

余計な事は言わず、
彼の誠意を受け取ることにした。
継続が大事、着実に。そう思った。


(私は仕事に集中だ。)

夜の仕事では、何か結果を残したいという思いで、とあるお客さま(以降、R氏)と2人でアフターに行くことになった。

R氏と私はお互い初見同士だったが、音楽の好みで意気投合した。
ただ、印象としては、なんだか高圧的だった。彼とは違った意味で、王様気質だった。
そこでも私は違和感を無視している。

私は初めてのお客さまとのアフターに、お金は出ずとも、次回に繋げなくてはと、「お店の看板を背負っている」と大袈裟なほどに気張っていた。

そんな私と対象的に、ママは私を心配する。
「みこ、無理しなくていいから、今日は帰りな。」

情けない話だが、私もお酒が回っている状態だった。
ママに「きちんと対応するので信じてほしいです!」なんて大きな口を叩いていたのを覚えている。
何度もママは私に大丈夫かと聞いていた。
そんなやりとりを見て、R氏は「そんなに俺が信用できないの?」と言う。
冗談のように聞こえるが、高圧的な印象も相まって、本心から出た言葉のように聞こえた。
ママは「絶対、安全に送り届けてね。頼んだから。」とR氏にも念を押してくれていた。

R氏と一緒にお店を出て、タクシー乗り場まで歩いている途中でR氏はコンビニに寄り、ATMでお金をおろしていた。

タクシーに乗ると、「近場に知り合い(男性A)の店があるので、どうしても連れていきたい」と話された。
私は1軒目だけだと、まだその時にはしっかりした意識を持っていた。

知り合いの店といわれ連れていかれた場所は、R氏の昔なじみの友人が経営しているバーだった。
私たち以外にお客はおらず、お店の人が2人(男性A)いた。
私は鮮明に覚えているが、R氏がお店に入った瞬間、2人の表情が強張ったのを見逃さなかった。
直感的に(R氏は、やっぱりそう思われている感じか)と、2人は私が抱いた印象と近い見方をしているのかもしれないと思った。

1時間ほど、そのお店で過ごし、R氏の会計で店を出る。
お店の中で、R氏から「お前がどの男にいくか俺は見定めているからな」なんてことを言われていたり、強引だなと感じる場面はいくつもあった。
だが、お店を出る頃には私は相当酔っていた。
終電も勿論ない。タクシーで帰るにしても、タクシー代は自腹なのだろうか?なんてド素人同然のことを考えていると、R氏は、男性Aと途中で合流した女性1人を含めた4人で、また更に知り合いの店に行こうと言い始めた。
私はもう、流されるままにR氏に着いていく。その時の記憶はないに等しいが、きっと「帰ります」とは言わなかったはずだ。

そして、2軒目。
2件目のお店の男性店員含め、6人での(R氏と私にとって)三次会が始まった。
R氏も、だんだんと口数が少なくなり酔いが回っているようだった。
私とR氏以外の4人はよく関わる間柄のようで、盛り上がっている。
よくわからない、内輪のノリを聞きながら、その店では私は1杯だけ飲んだことは何故か覚えている。
お酒の飲みすぎは恐ろしい。断片的に記憶がなくなるのだから。

そして、お会計時。
この場の支払いは誰が払うか、という男性Aの一声で、その場が静まる。
男性Aは、R氏に払ってもらうように交渉していたのを覚えている。

だが、R氏は「お金を持っていない」と言い始めた。

私は相当酔っていたはずなのに、R氏の発言から、更に空気が重く、静まり返ったあの空間のことはよく覚えている。
とても異様だったのだ。
途中で合流した女性も居心地悪そうな表情をしており、お手洗いに行ったかと思いきや、もう戻ってはこなかった。帰ったようだ。
女性はその場で私だけになる。

R氏と男性Aはこそこそ何か話していた。
顔をしかめて話す男性Aと酒が回って怪訝そうに受け答えをするR氏。
そして沈黙。

もうとっくに朝方の時間だった。
私はその日も仕事だった。(在宅)

私は、男性しかいないその場の重い空気と、結論の出ないやり取りに、「私が払う」と言ってしまった。
悪い癖が出ている。その場をどうにかしたい。私が払う事で、場が収まるならと、とんだ歪んだ自己犠牲だ。

男性Aは「それはちがうよ」と言うが、自分は払う気はないようで、更にR氏に訴え続けていた。
お店の人も「だめだよ…」なんて言いながらも、ツケという提案もしない。
当時の私は勿論、「ツケで!」なんて言えるような女ではない。
判断力低下、経験不足、すぐに人を信用する。
返してもらえるだろう、という軽率すぎる思考。

マイナス点を書き記したら、無限にでてくるほど、とにかく、その場の空気に流されやすい女だ。

私がカードで支払いを済ませた。
2桁はいっていないが、その土地相応の高価格ではあった。


支払いを済ませ、店を出ると、R氏はいない。男性Aもだ。


何故だ。思考停止する。


やられた、逃げられたと思った。


全く知らない土地ではないが、駅までの道のりは調べないとわからない。
どうやって帰ろう、と立ち尽くしていると、お店のマスターに、一回店に入れと言われる。

私がフラフラな状態で、かつ、R氏にも先に帰られ、そんな哀れな姿を見かねたマスターが、閉店した店内に入れてくれた。
バイトの男の子がグラスを洗いながら、水を出してくれた。

私は、みっともなく、R氏に対して怒り散らしてした。
「騙された。また男に騙された。悔しい。意味が分からない。」と、ボロボロに泣きながら、感情をあらわにしていた。
あー…今思うと本当に恥ずかしい。恥恥恥…。

そんな私を見て、マスターが大きな声で言った。

「お前、そんなことで泣いてるんだったら、夜の仕事なんてやめろ!
たいして顔も可愛くないんだから。だから、あんな客にひどい目合わされるんだよ。」

ぐうの音も出なかった。

マスターの発言を聞いてバイトくんは「いや~R氏はちょっとね…」とフォロー染みたことを言ってくれたが、私の中ではマスターの発言が心を抉っている状態だ。

また、見た目のことなのか。舐められる女ということなのか。
見た目、すぐ泣く弱さ、良かれと思ったことが、付け込まれる原因になっている…
男性が怖くなった。全員が、R氏や彼のような人ではない。
しかし、走馬灯のように、この1年で深く関わった男性との出来事が頭に浮かぶ。


今回は初めて期日を守ってくれたが、これまでの不誠実さを感じる彼、諦めの悪い男性上司、高圧的なR氏。


そして、その当時はマスターに対しても、酷い男だと思っていた。

もう、異性を相手にすること自体、私は向いていないのだと思った。
身の丈に合っていないことをしていることはわかってはいたが、現実を突きつけられたようだった。
再起始動できたかと思いきや、早々に洗礼を受けた気がした。

私はマスターの発言に何も言い返せないまま、店を出た。
マスターは、「駅まで送ってやる」と言って、顔もボロボロな私を駅まで送り届けてくれた。

社会人として失格だが、昼職は欠勤した。
身も心もズタボロだった。

そして、帰宅してからスマホを見ると、ママから心配のメッセージがきていた。
私は、R氏やマスターに対しての怒りと悔しさと、手痛い出費に感情がぐちゃぐちゃなりながらも、経緯を報告した。

当然、ママは驚きだ。「ありえない。」

怒られる、呆れられると思った。

だが、
「うちのみこをそんなん連れまわして、何やってんのR氏(怒)
 あいつ、バックレないだろうな…。
みこ、絶対返してもらうよ。」とメッセージが返ってきた。

ママは漫画の主人公のような女性だ。
どちらかというと、少年漫画の主人公のイメージだが、女性らしさも勿論兼ね備えている人だ。
ママの言葉にぶわっと更に涙が出る。
私はママに電話して謝罪した。

ママの言う通り。あの時、帰っていれば良かった。
ママの言う事を素直に聞いていれば、やる気が、空回りしている。
どうして、自分を押し通したんだろう。自分自身も信用ができなくなっていた。
真面目さが裏目に出た。いや、出すぎている。

ママとの電話を切ったあと、R氏にお店のレシートの写真を送り、返済日について確認のメッセージを送った。
念のため、男性Aと途中で帰った女性、2件目のマスターにも連絡をいれたが、返ってきたのは途中で帰った女性からのみだった。
「R氏返してくれるとおもうけどね!」「私も途中で帰ったから、よくわかんなくてごめんね」
その程度だった。

私はママとの電話で、辞めるとは言わなかった。
1度はきちんと、出勤して、直接ママに謝ろうと考えていた。

結局、R氏に送ったメッセージは今現在も既読がついていない。
バックレられたのだ。これも、ママの言う通りだ。

私は、気が重いなどという感覚はなく、もう虚無といった状態だった。
ぼーっと支度をし、出勤する。心ここにあらず、といった状態でも、お店に立つと笑顔を意識してしまうのは、保育士時代の賜物なのか、幼少期からの癖なのか。

ママ以外、お店の女の子たちはこのことを知らない。

ママは出勤して早々、私を呼び出し、状況確認をした。
私は相当酔っていており、断片的に記憶がないことも含め、全て話した。

そして、そのままカウンターに私を座らせ、営業時間にも関わらず、ママは私と1対1で話し合いの場を設けてくれた。
私はというと、無力感でただ涙しながら、マスターにこう言われただの、R氏に対しての悔しさなど、まるで自分が被害者だということを強調するような話ばかりがとまらなかった。

「私もう、無理だと思います。」

見た目について指摘されたこと、お金を稼ぐために始めた仕事なのに、お金を損失していること、もう全て投げ出したくも、辞める選択も、続ける選択もできない。弱音だけがとまらない。

ママは私の話を否定せずに聞いてくれていたが、言葉を選んで話してくれているのがわかった。
その優しさに対して、更に申し訳なさを感じてしまう。

「ネガティブだなー――」

と、ママが言ったとき、ママと付き合いの長いお客様(Sさん)が来店した。
私も何度も席に着かせていただいている。そして、私の家族や彼のこと含め、お店の中で私の事情を知っているのはママとこのSさんだけだ。
Sさんは豪快に笑いながら、私と並んでカウンター席に座る。

「みこ!!怪我したんだってなぁ!?」と、私にマキロンを差し出した。

泣きながらも、予想外のサプライズに笑ってしまった。

ママはすでにSさんにもR氏との件を話していたようだ。

私はSさんの登場に、更に、涙がとまらなくなっている。
Sさんは続けて、私の前にビタミンパックや塩タブレットや栄養ドリンクを出し、
「いっぱい泣いてるって聞いたから!!ビタミンと塩分取れるやつ買ってきたぞ。」
と、差し入れをたくさん用意してくれた。

たった3か月、週に2-3回の出勤の私にここまでしてくれるSさんの心遣いと、何よりママとSさんの信頼関係、連携プレーに、なんとも言葉にできない、この2人のやさしさに、こみ上げてくるものがあった。

「みこは痛い思いをしただろうけど、やばい奴をこの店から追い出してくれて感謝だな。(R氏は)もう2度と来れないだろ~。みこ、笑い話に変えればいい。でも、女はただ優しいだけじゃだめだ。どんな女性に男性陣は惹かれるかというと、強さを持っていないと。だって、いずれ我が子を育てる母親になる存在だから。」とSさん言った。

当時の私はNOという、強さを持っていなかった。
心に刺さる。

そして、Sさんも、苦しい経験をされたようだった。
それは私よりも、何倍もスケールの大きいものだった。

「でも、今回の件は自分が悪い」という私に対して、
ママが口を開いた。

「悪いのはR氏だよ。でも、負けたのはみこだ。」

涙が一瞬、とまる。
ママからのこの言葉はこの先も決して忘れない。

これまで自分が、違和感を無視し自己犠牲を続けた姿=優しさと思っていたことが、この一言によってクリアになる。
貸した私が悪い。借りた相手が悪い。どっちが良いか、悪いか。
常に白か黒かという思考だった。
R氏の件も、彼との件も全て自分の中で繋がっていた。
借りたまま、連絡もせず、無視し続ける相手は確かに悪い。
だが、そんな相手の言葉や態度に負け続けたのは私だ。

はっとさせられる、というのはこういうことだった。

「みこが私の娘だったら、もっと怒ってるね。
 お願いだからしっかりして!!!!!って。(笑)」
ママからのお叱りは、この言葉に込められていると感じた。


「でもね、怖いこというようだけど、本当に悪い人間ていうのも、いるよ。
でもね、そういう悪い人だけじゃなく良い人間だっているってことを、
見極められるようになるから。」
「私と会ったのだから、幸せになってもらわないと困る。」


彼の対応の変化を喜んでいたのも束の間、
R氏にバックレられ、損失をした。


人生荒波状態の私に、ママの言葉はどれだけ心の支えになったことか。

どんな気持ちになったか、なんて、
書き記さずとも、読んでる方にも伝わると、嬉しい。


「嬉しい」だけじゃ足りないくらいの気持ちになったのだから。


⑱に続く。

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