血なまぐさい人間たちの中にたった一人エンジェルがいた(映画「怒り」感想)

(※犯人が誰かは書いていませんが、優馬と直人の話の展開には触れているので、どんなネタバレもイヤ! という人は映画鑑賞後に読んでください)

 綾野剛が演じた直人はおとなしい役なので、見ている最中はあまり目立たなかったけれど、映画館を出て家に帰って何時間か経ってから、
「血なまぐさい人間たちの中に一人エンジェルいたね?」
 と気付いた。

 天に呼ばれている者の清浄。彼の優しい佇まいをしみじみ思った。

 映画「怒り」で私が最も知りたかったのは犯人などではなく、
「ベッドで後ろから優馬に抱きしめられている直人の表情の意味」
 だった。予告映像で使われたこの場面を見て、私は綾野剛に恋をした。

 悲しみをたたえた瞳と、おびえているような肩のライン。華やかな銀幕の世界にそぐわない、心をざわつかせる美しさを感じた。

 原作を読んでもどこの文章を映像化したものなのか全然分からない。ストーリーが進み、優馬の腕の中で直人が語り始めて、私は「あーっ!」と叫びそうになった。
 これ、原作では、温泉に入ってする会話じゃん!! 分からないはずだよ……

「仕事ヒマなわけ?」
 と直人に尋ねられた優馬が、
「お前の怠惰が移ったんだな」
 と答える(小説からの引用なので映画ではセリフが変わっているかも)

 ぞっこん惚れ込んでいる直人に会いたくて毎日早く帰ってしまうくせに、軽口でごまかす優馬。一見可愛いこの会話、「怒り」の結末を知ってから読み返すと、直人が傷付いたであろうことが想像出来る。
 直人は心臓病で、本当は怠けたくなんかないのに、体調が悪くて働けなくなったのだ。優馬には最後までそのことを隠し続けた。

 秘密と傷を心の奥深くに仕舞い込み、強く惹かれている男の腕の中にいる。直人は優馬の身勝手さを知っていて、最初からそれを許している。

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