映画「フリーダ・カーロの遺品 ―石内都、織るように」感想

 メキシコの画家「フリーダ・カーロ」の遺品を、日本の写真家「石内都」が撮影する様子を追ったドキュメンタリー。

 石内都さんはもともとそんなにフリーダ・カーロに興味があったわけではないそうで、フリーダ・カーロ財団の依頼を受けたから撮りに行っただけ。そのクールさが根底にあるため、非常に静かで落ち着いた雰囲気の映画になっています。

 しかしそれで起伏がなくて退屈かというと、全くそんなことはない。フリーダ・カーロは若い頃に大怪我をしたり、恋愛沙汰を繰り返したり、画風も人生そのままに過激だったりと、とにかく何かと過剰な人。それゆえファンも熱狂的で、彼らのフリーダへの思いが熱い読点のようにあちこちに打たれている。

 一方で石内都さんはそんなファンや遺品を管理している博物館の人たちに影響を受けることもなく、坦々と遺品を撮影し、彼女だけのフリーダ・カーロ像を見つけてゆく。「波瀾万丈な女性画家」という分かりやすい枠を取っ払い、不自由な体をコルセットや靴やドレスで補いながら、日々を丁寧に生きていたであろう、ごく普通の女性としてのフリーダを。

 もう一つ、突然の夕立のような展開があります。これはネタバレになるので言えない。

 フリーダ・カーロが愛したテワナという民族衣装についても、かなり時間を割いている。地元の女性たちが細かい花の刺繍をする様子や、テワナを着て踊る場面なども。

 フリーダ・カーロだけでなく、幼い頃から針一本で生きてきた無名のおばちゃんだって、十分波瀾万丈なのだ。女という弱い立場に置かれた無数の人間たちの、力強い生命。

 「ひろしま―石内都・遺されたものたち」という映画を見た時にも思ったけれど、石内さんは色眼鏡(先入観にとらわれた物の見方)というものを、根本的かつ徹底的に嫌悪しているんじゃないかと思う。

 自分の目(レンズ)で見て、自分で感じて、自分で決める。彼女の行動や作品から、我々の世界にはどれほど色眼鏡があふれ返っているかを思い知る。

 美術・写真・メキシコ・民族衣装あたりに興味のある方はぜひどうぞ。

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