スタインベック博物館
先日National Steinbeck Centerに行ってきました。
カリフォルニア、サリナスのオールドタウン、メインストリートに位置するこの博物館には作家スタインベックの幼少期からの写真やゆかりの品々が展示されている。
これを機にスタインベック短編集を読み直してみました。サリナスを舞台に生きる人々の悲喜交々が13話入っています。
「菊(The Chrysanthemums)」は農場で夫と暮らす女性の話。菊の世話に情熱を注ぐ彼女は、仕事欲しさにやってきた鋳掛屋の男との会話に心を揺さぶられる。男が菊に目を止めてくれたことをきっかけに、自分自身に新たな可能性を感じた彼女だが...。情熱、喜び、期待、そして落胆。一人の女性の孤独や欲求不満が描かれていて心をぎゅっと押しつぶされる。ちなみに菊の蕾がつく頃にすべき作業の説明は読者をちょっとソワソワさせる。
「逃走(Flight)」は貧しいネイティブアメリカン(インディアン)母子家庭の長男ペペが主人公。身体こそ大きいが精神的にはその年齢に達していない感じ。母親に言われ1人で馬に乗り街に買い出しに行くのだが、そこである男と諍いになりうっかり殺してしまう。ぺぺは家に帰り、事情を知った母親と幼い兄弟たちに送り出されて逃亡が始まる。過酷な状況下での逃亡劇は描写がリアル。ぺぺが疲れ切って眠る時は読者であるこちらの心もヘトヘトで、ぺぺが怪我をすればこちらも痛みを感じるような錯覚に陥ってしまう。最期の瞬間までぺぺと共にいた感覚に陥った。
「朝めし(Breakfast)」はこの短編集の中でも一番短い話。語り手は旅の途中、農夫一家と朝食を共にする。おはようと挨拶し合い、朝めしを一緒に食べようと誘われる。綿摘み一家のシンプルな朝食がとてもいい。ベーコン、焼きたてのパンにコーヒー。一緒に食べて、じゃあと別れる。それだけの、何もオチがない話なのに心が癒やされる。登場人物皆が簡素で素朴で温かい。
「聖処女ケティ(Saint Katy the Virgin)」は性格の悪い男が飼う極悪な豚ケティが「改心」して聖女になるという寓話的な物語。極悪なままだったらたっぷりのソーセージとなって人々のお腹におさまるはずだったのに、改心し聖女になってしまった今や、キリスト教徒としてはケティを食べるわけにもいかず...。道徳と宗教と食欲の三角関係が可笑しくシュールに描かれている。
「敗北(The Pastures of Heaven: Part 3)」はお金が無いのに投資で儲けているフリをする男とその妻や美人の娘の話。かなりの財産があると周囲の人々から思われており、そんなことに幸せを感じていた男が、娘が美人すぎるあまり超が付くほどの過保護になり、ついには娘とキスをした青年宅に銃を持参で向かってしまう。撃たなかったものの、通報されたことをきっかけに、化けの皮が全て剥がれてしまった。財産なんて無く全て作り事だったということが皆にバレた。最初のうちは読みながら「バカだな〜」と呆れたけれど、最後は可哀想になってきて同情してしまった。だけど良い奥さんがいるから彼はきっと立ち直るでしょう。希望が持てる終わり方。
他の話もいい。全ての話に共通するスタインベックの小説特有の土臭さには好き嫌いが分かれるのだろうけれど、私は好き。大衆小説ぽさもまたいい。
ちなみにサリナス、メインストリートの本屋さんにはもちろんスタインベック作品の棚が一番目立つとことにある。奥の方にはこんなスタインベックパネルも置いてあった。
本屋の店主さんが気さくな人で、「サリナスはスタインベックの”エデンの東”の舞台でね〜。映画のあとだけど、ジェームスディーンはサリナスの車のレースに参加するためサリナスに向かっていてその途中に事故で亡くなったんだ。サリナスは彼の最終目的地だったんだよ」と説明してくれました。
サリナスはメキシコ系人口が多いのもあり、同じ通りのメキシカンレストランのランチも美味しかった。良い一日でした。
(帰ってきてから気付いたのだがサリナスにはスタインベック生誕地「ジョン・スタインベック・ハウス」もあるのに、そこ行かなかった…次回!)