ポール・ディラックの理論は、推理小説とは違う
量子力学には δ(デルタ)関数という、不思議な関数がひょっこり現れます。
ひょっこりなので、初学者は必ずそこで一度つまづきます。
1926年、つまりほぼ百年前に、当時24歳の俊英ポール・ディラックが提唱したものです。当ブログで昨年取り上げていますね⇩
現代の量子力学の教科書にも必ず言及があります。しかし、天下り的に「そういう風にできている」と説明されて、そして「次いってみよー」と話がどんどん進んでいくので、私もかつて大いに戸惑ったひとりです。
どうしてそんな駆け足な書き方しかされないのか、愚痴ったことがあります⇩
ここ数日、生成AIを議論相手にしながら、ポールくんの δ関数論文を解読しています、頭の体操がてら。
上にあるのは冒頭とその次のページです。全てで21ページの論文です。途中から小難し気な数式の乱れ撃ちです。
その上ポールくんは、簡潔な書き方を好む方なので、唐突に「こんな数式を置いてみよう」と切り出してきます。その数式をいじり倒していくと、やがてあるシンプルかつ画期的な発見に至るというのが、彼のパターンです。
読んでいると困ってしまうわけですよ。まるで彼が、神様から結論を先に教わっていて、そこにうまく議論が収斂していくように、謎めいた数式を冒頭に提示しているんじゃないかって気にさえなってしまいます。
推理小説は、作者にすればトリックが先にあって、そこに探偵さんが迫っていくように物語を組み立てているにすぎません。読んでいると「おおっこのささやかな手がかりから、銀行の地下金庫への侵入計画を察知して現行犯逮捕に至るなんて、すごいやシャーロック」なんですけど、作者さんにすればそういう風に彼が活躍できるよう、事前にいろいろ設定を置いているにすぎないわけです。
ポールくんの論文を読んでいると、良くも悪くも上質の推理小説のようです。「そこを手掛かりにして、ここまで推理して、真犯人を逮捕するんかあんたは!」な驚きの裏で、私としては「話がうますぎる。あんた神様から事前にトリックを耳うちされていて、それをまるで自分の推理で解き明かしていく風に論文を綴っているんやないんか?」とからかいたくもなくもないというところです。
むろん彼はシャーロックなどという幻の名探偵ではありません、実在の人物で、推理もすべて本当になされたものです。
彼がどうやって閃き、推理していったのかを推理するのが、目下私の道楽となっております。