天才ディラックが見落とした、もうひとつの海
ChatGPT をバディにして、連日いろんな議論を続けています。
先日このブログで検証した、ポール・ディラックによる気体分子運動の論文(1926年)を、アニメーションで説明できないか、ChatGPTと議論してきました。
結論をいえば Python のライブラリのひとつ「Manim」については、あまり凝ったスクリプトを ChatGPT では(おそらくほかの生成AIについても)作れないようです。
もっと簡素なライブラリに頼るのであれば、まあまあのものを作ってくれます。前回のぶんでお見せした、こんなのとか。
これは前述のディラック論文に出てくる、気体分子の波動関数(withその条件式)をアニメーションで視覚化したものです。
$${ψ_{α_1α_2α_3}=exp.i(α_1x+α_2y+α_3z-Et)/h}$$
$${{α_1}^2 + {α_2}^2 + {α_3}^2 - \frac{E^2}{c^2} + m^2 c^2 = 0}$$
シュレディンガー方程式とその解である謎の波動関数のアナロジーで、気体分子の運動を考えていくにあたって、上の波動関数をポールくんは捻りだしました。(どう捻りだしたかというと、シュ方程式と酷似した式を使っています。詳細はこちら)
この論文を書き上げた当時のポールくんは気づいていなかったのですが、シュ方程式の解である謎の波動関数ψは、その絶対値の二乗すなわち $${\left| \psi \right|^2}$$ が存在確率を表します。
電子です、電子がある場所・ある時間に存在する確率を示すのです。
ということはポールくんによる気体分子の波動関数も、その絶対値を二乗したものは、ある特定の場所・時間における存在確率を示すことになります。
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喩えるならば無限に広く、深い大洋があって、海面も海底もない、どこまで潜水艦で行っても潜っても海洋が続く、そういう大洋があって、水圧も完全に一定、しかし水温(ψ)は時と場所によって変化する、そういう海を表しているのですポールくんの波動関数って。
$${ψ_{α_1α_2α_3}=exp.i(α_1x+α_2y+α_3z-Et)/h}$$
$${{α_1}^2 + {α_2}^2 + {α_3}^2 - \frac{E^2}{c^2} + m^2 c^2 = 0}$$
そこまで考えて $${\left| \psi \right|^2}$$ の変化を色で表わすアニメーションを作ってみたら、この元祖・ディラックの海(気体分子の海というべきかな)を視覚化できるんじゃないかって思いつきました。
あいにく ChatGPT は Manim 用のスクリプトで凝ったものを作らせるとたいていエラーに終わってしまうので、いざやってみたらやはりエラーの連続でした。
しかし、粘っているうちにとんでもないことに気づかされました。
くだんの波動関数って、これですよね。
$${ψ_{\alpha_1 \alpha_2 \alpha_3} = \exp\left(\frac{i(\alpha_1 x + \alpha_2 y + \alpha_3 z - Et)}{h}\right)}$$
この絶対値の二乗を算出するには、ψの複素共役であるところの…
$${\overline{\psi}_{\alpha_1 \alpha_2 \alpha_3} = \exp\left(-\frac{i(\alpha_1 x + \alpha_2 y + \alpha_3 z - Et)}{h}\right)}$$
…を掛ければいいので、やってみるとですね…
$${\left|\psi_{\alpha_1 \alpha_2 \alpha_3}\right|^2 = \exp\left(\frac{i(\alpha_1 x + \alpha_2 y + \alpha_3 z - Et)}{h}\right) \cdot \exp\left(-\frac{i(\alpha_1 x + \alpha_2 y + \alpha_3 z - Et)}{h}\right)}$$
まてよ、これって…
$${\left|\psi_{\alpha_1 \alpha_2 \alpha_3}\right|^2 = \exp(0) = 1}$$
どの深度、位置においても
気体分子の存在確率は、1やんか!
をを神よ、考えてみれば条件式の
$${{α_1}^2 + {α_2}^2 + {α_3}^2 - \frac{E^2}{c^2} + m^2 c^2 = 0}$$
…は、エネルギーと運動量の関係を表していて、気体分子のエネルギー状態に関連しています。これは理想気体のモデルにおいても、エネルギーと運動量の関係が成立することを示しています。(特殊相対論からたやすく説明できる!)
理想気体のモデルでは、気体分子は互いに相互作用せず、広い空間にわたって均等に分布していると仮定されます。そのため、波動関数の絶対値の二乗が一定であるというのは、理想気体の状況においては妥当な解釈ですねん!!![追記 後日さらに論じるなり]
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天才・ディラック(24歳)も、ここまでは当時気づかなかった。もし気づいていたら、彼の性格からして同論文内で必ずそこを指摘してきます。
気付かないまま、通り過ぎてしまったようです。
$${ψ_{α_1α_2α_3}=exp.i(α_1x+α_2y+α_3z-Et)/h}$$ は導出しておきながら…
$${\left|\psi_{\alpha_1 \alpha_2 \alpha_3}\right|^2 = \exp(0) = 1}$$ には気づかなかった!
もし気づいていたら、マックス・ボルンより僅差で早く、またはほぼ同時に、波動関数の確率解釈まで到達できていたと、思われます。