Evan.【二次創作】
目が覚めると、また霧の中だった。
殺人鬼が彷徨い歩く、この霧の深い森の中に、私は何度も閉じ込められて、殺されている。
私たちに残された方法は、各所に隠されている発電機を修理し、通電させて森の端にあるゲートを開き、脱出すること。
ハッチと呼ばれる脱出口が見つかる場合もあるが、それは極めて稀なケースだ。
しかし、脱出できたとと思ってもまた意識が朦朧とし、再びこの霧の中に戻される。
何度閉じ込められて、何度殺されればいいのだろう。
この森の中では、生きている人間に会うこともある。
性別も人種も、生い立ちもバラバラ。
どうしてこの森の中に誘われたのかわからないほど、統一性は感じられなかった。
今回の森は、どうやら炭鉱の跡地のようだった。
トロッコが走っていただろうレールはひしゃげており、地下に続く倉庫だったと見られる建物は崩れかけていた。
ここ、前にも来たことがある。
あの時は殺された。でもどう逃げたらいいかは覚えている。
今度こそは失敗しないように。
そっと茂みに隠れて様子を伺っていると、殺人鬼の気配が感じられる。
幸運なことに前回と同様の、強靭な肉体を持った罠を仕掛けるタイプの殺人鬼だった。
なら話は早い。もし見つかったとしても、前回みたいに間違えなければいい話だ。
そうした気の緩みがつい自分の身を隠していた茂みを鳴らしてしまった。
殺人鬼の瞳がこちらをじっと見ているのが、無理矢理作り出した歪な笑顔のマスク越しからでもわかった。
しまった。でも大丈夫。
スタートダッシュは完璧だった。
あの角を曲がって。その先の窓枠を飛び越えて。
弾む呼吸に息苦しさを感じつつ、一度通った道を再び辿る。
ここで追いつかれたんだっけ。
崩れかかった地下倉庫に入って、行き止まりで殺された。
地下倉庫の手前で急に方向転換を図る。
チラリと背後を確認すると、予想だにしない動きに一瞬狼狽えたように見えた殺人鬼。
そして、ピタリと足を止めたのだった。
「えっ」
思わず声が漏れてしまった。走る速度も次第に落ちていく。
呆然と立ち尽くす殺人鬼。
倉庫の入り口を見つめながら、何か声を発している。
「トウ…サン…」
確かにそう聞こえた。
殺人鬼が喋った?
目の前の獲物より興味を惹きつけるものは?
この地下倉庫に、記憶と結びつく何かがあるのだろうか?
どうしたものかと足を止めた刹那、殺人鬼がこちらを凝視する。
しまった。また油断をしてしまった。
全力疾走で森を駆け抜ける。
シミュレーションになかった展開に焦りながら、闇雲に走り続けた。
あの窓枠を乗り越えれば…!
勢いよく窓枠を掴んで、地面を蹴る。
ふわっと身体が宙に浮き、地面に足をつけようとしたその瞬間、右足にとてつもない激痛が走った。
うっかりしていた。まんまと殺人鬼が仕掛けた、巧妙な罠にかかってしまった。
右足に挟まれたトラバサミを必死に解除しようとする。
傷口から滲む血。
焦って手が滑り上手く解除できない。
背後に迫り来る影。
またダメだった、と思った瞬間、身体に鈍い衝撃が走り、意識が遠のいていった。
担ぎ上げられ、フックにかけられる瞬間、ふと作り物の笑顔のマスクの奥が、濡れているように見えたのは気のせいだろうか。
そう思った途端、左胸に激痛が走り、私はまた絶命した。
【参考資料】