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アバターの見た目がユーザーの行動を変える「プロメテウス効果」

アインシュタインのアバターを使うことで認知課題の成績が上がるという趣旨の論文を読んだのでメモ(1)。

これまでのVRの研究を見てみると,身にまとったアバターによってユーザーの行動や認知課題の成績が変化することが分かっています。具体的な研究の結果の例を挙げると以下のようなものがあります。

・子どものアバターを使うと動きが子どもっぽくなる(23
・フロイトのアバターを使うと人間関係の問題をより満足のいく解決策を考えることが出来るようになる(4
・褐色のカジュアルなアバターを用いるとリズムよく打楽器をたたくようになる(5

このように使うアバターによって行動が変容することが分かっています。今回紹介する論文は特定の特徴を持ったアバターを使用することでユーザーがその性質を帯び,認知処理に影響を与えることを教えてくれます。

2018年にバルセロナ大学のドンマ・バナコウらがアバターの種類によって認知処理は変わるのかについて調べるために実験を行いました。

実験の対象になったのは大学生30名でした。

実験参加者はランダムに2つのグループに分けられ,それぞれ割り当てられたアバターになり,その後知能検査を受けてもらいました。その2つのグループは以下の通りです。

<グループ1>
アインシュタインのアバター

<グループ2>
普通の男性

またVRでアバターになる前後で年齢とポジティブ・ネガティブの解釈と自尊心に関する潜在的な態度の測定を行いました。

実験の結果,アインシュタインのアバターになった場合には普通の男性のアバターになった場合と比較して知能検査の成績が高くなりました。

また年齢(老い)に対するポジティブ・ネガティブの態度に関してはアインシュタインのアバターを経験した前後で大きく態度が変容し,年齢(老い)に対するポジティブな態度が増加していました。しかし自尊心はアインシュタインのアバターを経験することによって普通の男性のアバターを使用した場合と比べて低下してしました。

過去の研究をみると,「老い」などの年齢の高い事柄がプライミングされることによってワーキングメモリや意思決定の質(6),行動の速さの低下など認知・運動能力の減衰が引き起こされます(7)。

しかし今回の結果では,この年齢による認知・運動能力の減衰が見られず,アインシュタインのアバターを身にまとうことで認知能力の向上が確認されました。この結果はゲームなどの使うアバターやキャラクターによって自分自身の能力が変動する可能性を示唆しています。

(1)Banakou, D., Kishore, S., & Slater, M. (2018). Virtually being Einstein results in an improvement in cognitive task performance and a decrease in age bias. Frontiers in psychology, 917.

(2)Banakou, D., Groten, R., and Slater, M. (2013). Illusory ownership of a virtual child body causes overestimation of object sizes and implicit attitude changes. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 110, 12846–12851.

(3)TajaduraJiménez, A., Banakou, D., BianchiBerthouze, N., and Slater, M. (2017). Embodiment in a childlike talking virtual body influences object size perception, self-identification, and subsequent real speaking. Sci. Rep. 7:9637.

(4)Hasler, B. S., Spanlang, B., and Slater, M. (2017). Virtual race transformation reverses racial ingroup bias. PLoS ONE 12, 1–20.

(5)Bergström, I., Kilteni, K., & Slater, M. (2016). Firstperson perspective virtual body posture influences stress: A virtual reality body ownership study. PLoS ONE, 11(2), Article e0148060.

(6)Wood, M., Black, S., & Gilpin, A. (2016). The Effects of Age, Priming, and Working Memory on Decision-Making. International journal of environmental research and public health, 13(1), 119.

(7)Levy, B., et al. (2009). Age stereotypes held earlier in life predict cardiovascular events in later life. Psychological Science, 20, 296-298.

■赤を身につけるとなぜもてるのか?/タルマ ローベル (著), Thalma Lobel (原著), 池村 千秋 (翻訳)

■ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか/クロード・スティール (著), 北村英哉 (その他), 藤原朝子 (翻訳)

■無意識のバイアス――人はなぜ人種差別をするのか/ジェニファー・エバーハート (著), 高 史明 (その他), 山岡 希美 (翻訳)

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