89.未だに返せないCDのこと
先日、高校時代の友達、たなかくん(仮称)の夢を見た。
恋じゃないようで恋だったのかな、でもやっぱり恋じゃなかったのかな、そんな苦くて甘い記憶が懐かしく蘇ってきたので、noteに残しておこう。
(蒸し暑い夜にアイスでも食べながら、暇つぶしに読み流してください)
いくつになっても、恋の記憶は歪で恥ずかしい。
***
高校一年生の夏が過ぎた頃、私は友達の勧誘でその部活に入部することになる。少人数で活動していた個人競技・体育会系の部活だった。練習も男女混合で仲良く取り組んでいて、私を入れて4人だったので、規模は小さく活動していた。
そして、そこには今回の主人公である、たなかくんがいた。
思い返せば、同じクラスの隅っこにいたような……、確かいた。激しい人見知りを炸裂させていたたなかくんは、私の挨拶にも「おぉ」という、小さく渋い声を出して頷いた。
たなかくんの私に対するよそよそしい態度はしばらく続いた。
部内連絡で話す時も目を合わせてくれないし、二人で練習していても会話はなし。内心、なんだコイツ、と思っていた。いくら人見知りでも、と。
ひとつ年上の先輩は人当たりがよくコミュニケーション力に長けていたから、部活が終わって皆で片付けをしている時は賑やかな雰囲気で、先輩もたなかくんの良いいじり方を知っていたし、たなかくんもケラケラと楽しそうに笑っていた。
いつの日を境にか忘れてしまったけど、先輩や友達と一緒にたなかくんを囲んで話している内に、私とたなかくんはかなり仲が良くなった。多分、邦楽ロックが好きなことや、部内では私が容赦なくボケを振って、たなかくんがめちゃくちゃボケるみたいな鉄板が確立されたから、本人も楽しかったのだと思うし、私も本当に楽しかった。クラスでは静かにひっそりしているたなかくんは、部活では誰よりも人を笑わせて、思ったよりも我儘で、気遣い屋で、素のまま過ごしていたのだと思う。
私も部活に熱中していたし、授業とか学年活動なんかよりも部活が一番楽しかった。たなかくんとは男同士のような関係で、下世話な話でゲラゲラ笑ったし、昼休憩から部活まで学校を抜け出して2人でカラオケに行ったり、帰り道に自転車に乗ったまま、たなかくんの人生相談を延々と聞いたりした。一緒に居すぎてたまに面倒な時もあったけど、今思えば、本当に仲が良かった。
高校三年生に上がる前、私にはじめて彼氏ができた。
同じ体育館で活動する別の部活の先輩だった。引退をしてもOBとして後輩指導に来ていたから、練習時間を合わせては一緒に帰ったりして、そんな時たなかくんは気を遣っていたのか、そそくさと一人で帰って行った。
***
季節は忘れたけど、ある夜、私が自宅のパソコンに向かっていた時。
携帯にたなかくんから着信が入った。いつもは簡素なメールなのに、と思って出ると、いきなりごめん、といつものたなかくんが電話口に現れた。なになに、と気怠い感じで聞いていると、なかなか本題を言い出さない。ついには今から言うことは無視してくれ、というようなことを言い出して、もう何!とちょっと苛立ったのも束の間、
「俺、お前のこと好きやってん」
頭がフリーズするとはこのことで、頭上に「え?」という文字が浮かんでいたと思う。それから、いつもボケてばかりのたなかくんだから、これも何かの冗談だと思いはじめて、私もえー、とかなになに?と半笑いでいると、「前からずっと好きだった」と、追い打ちを掛けるかのようにたなかくんの真面目な声が聞こえた。あ、これは、本気の感じ。それからすごく冷静に、ありがとうと返した記憶がある。私に彼氏がいること知ってるのに何で伝えてくれたのか聞くと、今伝えたくなったから、とシンプルな返答があった。
きっと、この時ほど驚きとドキドキに満ちた告白を受けたことはない。
「明日からも普通でいよう」
電話を切る前にたなかくんは言った。突然告白をしてきたのに、普通でいようとは。当然意識をしてしまうけど、それよりも大切な男友達を失いたくなくて、学校で会う日はお互い普通の顔で、いつも通りの関係で会った。でも結局、たなかくんから言ってきたくせに、また目を合わせてくれない時期が少しだけ続いた。
それから数ヵ月後、たなかくんはご両親の都合か何かで転校することが決まった。一緒に卒業することができないのがすごく悲しかったし、素で話せる友達がいなくなることに喪失感を感じた。きっと転校が決まったから想いを伝えてくれたのかなぁ、と考え込んだ。
そして、たなかくんは予定通り転校した。
引っ越しを振り切って帰ってきたり、強引に私を連れてどこかへ逃亡、なんてドラマチックな展開にはならなかった。当たり前だけど。
***
で、いつか貸してくれた山崎まさよしとthe pillowsのCDを返していない。
たなかくんの最終通学日、そのあとも高校を卒業してから皆で会う機会はあったのに、私はCDを毎回返し忘れていた。だから、まだ家の段ボールに保管されていて、いつか返さなきゃと今でも思う。最後に会ったのは、6、7年前だったかな。今はどこで何をしてるだろう。時が経ちすぎて、どう連絡していいかわからなくなってしまったけれど、心の中でいつも思う。
どうか、どこかで幸せに、笑って過ごしていてね。
おわり
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** OSUSUME **
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