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読書ノート 「三体Ⅰ」「三体Ⅱ(上・下)」

「三体」 劉慈欣 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳 立原透耶監修


 『三体』三部作の第一部。アジア圏作品として初のヒューゴー賞長編部門受賞、現代中国SF最大のヒット作で、テンセント・ネットフリックスで実写ドラマ化され好評を博している。

 この読書ノートでも先に取り上げている「文化大革命」が下敷となり、その歴史的暗部から端を発して壮大な星間侵略戦争が勃発する。人類が勝利する見込みはほぼないと思われるなか、絶対不利な状況が徐々に到来する様子が第一部第一巻では進行する。レイチェル・カールソン『沈黙の春』は、人間の醜悪さを見せつけるためのツールとして至極真っ当にここでは登場する。

 エスエフ的アイディアも惜しみなく開闢され、ファンにはたまらないであろう。ナノテク技術による切断網〝琴〟。陽子をスーパーインテリジェントコンピュータに改造する「智子プロジェクト」。VRゲーム「三体」における三体世界(脱水人間の過酷さ)、そして三千万の人間による計算陣形「秦一号」。また泥臭い地球三体運動内の組織抗争もスリリングな展開を持ち、読む者をまったく飽きさせない。葉文潔、王淼を中心に、締め付けられるような厳しい状況のなか、唯一の救いが武闘派の史強で、読者も王淼もどれだけ彼に助けられたことか。

 読みだしたら止まりません。この勢いで第二部も読みましょう。しかし、うまいなあ。



「三体Ⅱ」 劉慈欣 大森望、立原透耶、上原かおり、泊功 訳

 はい、更にうまさに磨きがかかっておりました。これは三部作の中心的物語です。サスペンス、謎、冬眠後の世界、終末危機、地球艦隊と三体探査機「水滴」との宇宙空間での戦いにならない戦い、圧倒的な「三体世界」の科学力と矮小でやられまくっている地球の技術力。そして羅輯が文潔から伝えられた宇宙文明の公理を発展させ、三体世界を屈服させるクライマックスはなんとも鮮やかで劇的である。解説で作家の陸秋槎が指摘するように、文化大革命の密告の経験と、猜疑連鎖の公理には相似関係があり、暗く孤独な宇宙空間で我々生命がすることの残酷さが胸に染みる。


 読み終わって、また「三体Ⅲ」を読み返したくなった。下巻は夕方から読み出して十二時前まで一気読み。小松左京の先を行く圧倒的スケールと物理学の素養が相まって、すごいですよ、これは。『銀河英雄伝説』『(プラトン)国家』も出てきます。


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sakazuki
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