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読書ノートと小説を。 背骨にひっかかるような言葉を紡げたらとおもいます。 支持いただけ…

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読書ノートと小説を。 背骨にひっかかるような言葉を紡げたらとおもいます。 支持いただければ幸いです。

マガジン

  • 極私的読書ノート

    偏らないように読んでいるつもりがやっぱり偏ってますね。 理解と感想を入り混じらせて、新たなヒントや読もう!という気持ちを導き出せていればいいな。基本姿勢は感想より原文重視です。

  • とっておきの河合隼雄

    『こころの処方箋』を入り口に、河合隼雄を読む人も多いですが、その思想の奥には深遠な精神世界が渦巻いています。「夢」「カウンセリング」「共時性」をキーワードに、様々な著作をピックアップし、俗人の私なりにまとめ、「ひと」と「こころ」について考えていこうと思います。

  • 連載小説【揺動と希望】

    北朝鮮からミサイルが飛んできて、南海トラフ大震災が起こった日本がどう右往左往するか、そしてそのなかから新たな世界構築へ向かう思想が生まれるまでの物語。崩れゆく世界で根拠なき希望を語ることについて、ゆっくり思考しながら試行するつもりでいきます。長丁場になりますがお付き合いください。

  • 井筒俊彦についての読書ノート!

    井筒俊彦の思想に触れたい!と言う人のためのマガジン。何かしらのヒントになれば幸いです。

  • プロティノスについて知りたい!

    エネアデスからプロティノスの思考を追いかけ、理解を広げたい人向け。 知ったかぶりできます。 取り上げている書物は、プロティノス全集(中央公論社)1〜4巻+別巻、『善なるもの一なるもの』などです。

最近の記事

  • 固定された記事

連載小説【夢幻世界へ】 1−1 石化した彼女

【1‐1】  どうやってもうまく歩くことができない泥濘みの勾配に辟易しながら前を仰ぎ見ると、鬱蒼とした竹藪の隙間から目的地の白い建物が現れた。  コンクリートむき出しの壁から、小さな両開きの窓がいくつも均等に並んでいるその建物には、あと十数分で到着できるであろう。  重い足取りの中、なぜいまここにいるのかといった問いがやってくる。  シダ類の葉の中に妖精蛾が3匹、包まるようにして留まっている。妖精蛾というのはこの地域の呼び名で、頭部が人間の女性の顔に酷似していることか

¥100〜
割引あり
    • 読書ノート 「ハンナ・アーレント 〈生〉は一つのナラティヴである」 ジュリア・クリステヴァ松葉祥一・椎名亮輔・勝賀瀬恵子訳

       クリステヴァが敬愛する「(三人の)女性の天才」の一人が政治哲学者アーレント。ちなみに他の二人は精神分析家メラニー・クライン、作家コレットです。  クリステヴァの表現は面白く、独特である。濃密かつ婉曲し至言に満ち、膝をつくような言い回し。しかし時には頑迷で理解困難。とりあえずフラグメントを集めてみよう。 われわれは、彼らの発明、思想や人間の発展に通じる革新、それらの革新が生み出す喜び、発見、問いの開花などが、彼らの歴史と分かちがたく結びついているがゆえに、彼らの歴史を語ら

      • 読書ノート 「能動的想像法 内なる魂との対話」 J.M.シュピーゲルマン/河合隼雄  町沢静夫・森文彦 訳 

         河合隼雄は深遠な人である。日本神話の精神分析、日本の中空構造の提示、明恵の夢の仏教的取り組みなど、画期的な東洋の哲学的・思想的命題を提示したかと思えば、「嘘つきクラブ」では軽妙な洞話を吹く。かと思うと、深刻な患者には長期にわたり一心不乱にコミットし、文化庁長官などという官職をこなし、高松塚古墳のいざこざに巻き込まれ、その疲れもあってか急逝してしまう。人懐っこさから来るその普遍的な大衆の敬愛が意味するものとは正反対の遠面に位置するテーマとして、「共時性」や「集合的無意識」があ

        ¥500
        • 読書ノート 「はじめてのスピノザ 自由へのエチカ」 國分功一郎

           はじめてのスピノザである。この本はもともとNHK「100分で名著」の原稿であったが、國分功一郎が追記し講談社現代新書にしたもの。読んでみて思ったが、十分に内容が濃くあり、さらにわかりやすいという名著に値するものでした。講談社エライ。 「思惟の様態」。自然界に善悪は存在しない。それは自然界に完全/不完全の区別がないこと。音楽もそれ自体は善くも悪くもない。ただそれは組み合わせによって善くも悪くもなる。 道徳はもともとは、実験に基づいていた。それが忘れられて結果だけが残ってい

        • 固定された記事

        連載小説【夢幻世界へ】 1−1 石化した彼女

        • 読書ノート 「ハンナ・アーレント 〈生〉は一つのナラティヴである」 ジュリア・クリステヴァ松葉祥一・椎名亮輔・勝賀瀬恵子訳

        • 読書ノート 「能動的想像法 内なる魂との対話」 J.M.シュピーゲルマン/河合隼雄  町沢静夫・森文彦 訳 

        • 読書ノート 「はじめてのスピノザ 自由へのエチカ」 國分功一郎

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        • 極私的読書ノート
          229本
        • とっておきの河合隼雄
          14本
          ¥500
        • 連載小説【揺動と希望】
          7本
        • 井筒俊彦についての読書ノート!
          25本
          ¥300
        • プロティノスについて知りたい!
          8本
          ¥300
        • 極私的小説【扉(仮)】
          12本

        記事

          読書ノート 「クリステヴァ 現代思想の冒険者たち30」 西川直子

           ラカンの系譜にいる精神分析学者かと思っていたが、よく見るとそうではなく、哲学者・文芸批評家という位置であり、日本でいうと柄谷行人と似ている。「知識のブルドーザー」と評されているそうだが、たしかにその文体を見ると、これでもかといった感じで各方面の思想・知識・情報が盛り込まれ、一瞬小松左京を想起した。写真を見ると華奢な女性で、アーレント含め、ヨーロッパの優れた女性思想家は小柄で痩せこけた身体から発生するのかと思ってしまう。   著者の西川直子さんは1942年生まれ。早稲田大学

          読書ノート 「クリステヴァ 現代思想の冒険者たち30」 西川直子

          読書ノート 「精神分析入門講義(下)」② フロイト 高田珠樹・新宮一成・須藤訓任・道籏泰三訳

           ここでは、新宮一成の解説の続きを写す。  前回の部分だけでは、やはり尻切れとんぼになるのだ。少し長いですがお付き合いください。  人の表象世界や概念体系が安定的に社会の現実の構造に繋がれていれば、人の心も社会もそれとともに安泰であろうが、そうはいかない流動する現実が世界大戦というかつてない規模で人間世界に押し寄せていた。心と現実を対応させる象徴体系のぐらつきに、意外な角度から指摘されないとわれわれは気づかない。時代が第一次世界大戦においてこの動揺を否応なく経験するのと並行

          読書ノート 「精神分析入門講義(下)」② フロイト 高田珠樹・新宮一成・須藤訓任・道籏泰三訳

          読書ノート 「精神の考古学」 中沢新一

             『チベットの先生』は、ケツン・サンポの自伝・回想記である。中沢がチベットの仏教を学んだときの師匠であり、その全貌はわれわれ西洋化した日本人にも開かれている。しかしその教えは言葉で伝えることが甚だ困難で(なぜならそれは実体験がなければ理解しがたいものであるのだから)、それを伝えることができる日本人はほぼ中沢以外にはいないと言ってもいいのだろう。  『レンマ学』も重たい書であったが、この『精神の考古学』も貴重な唯一の書であると言っても過言ではない。ここでは、馴染みのないチ

          読書ノート 「精神の考古学」 中沢新一

          読書ノート 「仕事」 今村仁司

           「働くこと」とは何か。1967年生まれの日本人である私は「働かざるもの、喰うべからず」と言われて育った。労働は「生きる意味」だとも教えられた。「働きがい」が重要で、それを見つけることがさも人生の大きな目標であり、それは「アイデンティティの確立」と同義語であるとさえ刷り込まれた。そのような中間搾取の雇用労働者の系譜に生きて、何ら疑問を感じなかったのは事実だ。  はたしてそうなのだろうか。今ここに来てそうした疑問を呈することができるようになる。世界の過去を見つめ、陰惨な罪の歴史

          読書ノート 「仕事」 今村仁司

          読書ノート 「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」 尾身茂

             カミュ『ペスト』、デフォー『ペスト』、チャペック『白い病』など、伝染病にまつわる小説・物語が伝えるものは何であろう。その悲惨さ、不条理さはそれらに余すところなく描かれているが、伝染病そのものを統制し抑止し、防ごうとした者たちの記録はどこにいったのだろうか。たぶん、どこかしこにはあるのだろうが、それが周知の目に触れることは少ない。なぜなら、それは失敗と後悔、無粋な無自覚と狭苦しい無反省の塊であろうから。  社会をしなやかに動かすこと、危機的な状況の社会全体を俯瞰して動かす

          読書ノート 「1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録」 尾身茂

          読書ノート 「精神の政治学」 今村仁司

           今村仁司の論説集。軽いものから少し重た目まで。概して平易な書きぶりである。一九八六年から八八年までに書かれた小論。  一言で言うなら現代思想を現代に映し準え、「具体的に考える」を旗印にきれいにまとめて整理したもの。一言じゃないですね。  フラグメントを集める。 古代ギリシア(アリストテレス)の「ゾーン・ポリティコン」は、無造作に「社会的動物」と訳されているが、この言葉の中には近代的含意はまったくない。ギリシア的な「ポリス的生き物」とは、ポリスのなかでのみ真実に生きること

          読書ノート 「精神の政治学」 今村仁司

          読書ノート 「親ガチャの哲学」 戸谷洋志

           二〇二一年に流行った「親ガチャ」(子供は親を選べない、ちょうどガチャガチャのカプセル玩具のように)についての哲学的考察。戸谷洋志なのでただの解説では終わらないだろうと期待して読んだが正にそのとおりであり、満足である。  最終的には責任と対話に行き着くのだが、まずはフラグメントを収集する。 「親ガチャ」=「格差の拡大・固定化」 親ガチャ的厭世感は苦境に陥ることによって生まれるのだから、社会がその苦境を取り除くこと、つまり社会保障を充実させることが、解決策になるでしょう。し

          読書ノート 「親ガチャの哲学」 戸谷洋志

          読書ノート 「ねじまき少女」他4作

             近未来・世界改変エスエフを集中的に読んでみた。 『パヴァーヌ』(1968) 『すばらしい新世界』(1932) 『都市と都市』(2009) 『未来省』(2023) 『ねじまき少女』(2009)   『パヴァーヌ』  1588年、英国女王エリザベス1世が暗殺され、スペイン無敵艦隊が英国本土に侵攻し、英国は欧州世界と共にローマ法王の支配下に入る。宗教改革は起こらず、20世紀には法王庁の下で科学は弾圧され、蒸気機関車だけが発達するというアナザーワールドが展開する。その

          読書ノート 「ねじまき少女」他4作

          読書ノート 「三体Ⅰ」「三体Ⅱ(上・下)」

          「三体」 劉慈欣 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳 立原透耶監修  『三体』三部作の第一部。アジア圏作品として初のヒューゴー賞長編部門受賞、現代中国SF最大のヒット作で、テンセント・ネットフリックスで実写ドラマ化され好評を博している。  この読書ノートでも先に取り上げている「文化大革命」が下敷となり、その歴史的暗部から端を発して壮大な星間侵略戦争が勃発する。人類が勝利する見込みはほぼないと思われるなか、絶対不利な状況が徐々に到来する様子が第一部第一巻では進行する。レイチ

          読書ノート 「三体Ⅰ」「三体Ⅱ(上・下)」

          読書ノート 「訂正する力」 東浩紀

           「はじめに」で、この本の言いたいことがほぼ述べられている。それはこうだ。 日本はリセット願望が強い国。 明治維新、敗戦、大震災、「いったんとことんダメになり、そこから再生すべきだ」少子高齢化についても、「延命治療を止めるべき」「老人は集団自決するべき」といった議論が定期的に現れる。 老いを肯定的に語る術を持たなければならないのでは。 老いるとは、若いころの過ちを「訂正し続ける」ということ。 日本には、変化=訂正を嫌う文化がある。 政治家・官僚は間違いを認めない。

          読書ノート 「訂正する力」 東浩紀

          読書ノート 「晩年のカント」 中島義道

           著者の中島義道は1946年生まれの七八歳。その老齢者が晩年のカントに共感しつつ、その飽く無き哲学する、という姿勢への敬慕を示した本。自分の半生にずっと付き歩いた哲学者に対し、好きとか嫌いといった感情、肯定否定も超え、自らの人生をも振り返る書きぶりがなんだか温かい気持ちにすらなる。少しばかりのフラグメントをここに記し、シンパシーを示そう。 根本悪を犯すのは、いわゆる極悪人ではなく、法律を遵守し、きわめて品行方正でありながら、いったん自分の幸福が脅かされると嘘をつくような善良

          読書ノート 「晩年のカント」 中島義道

          読書ノート 「パレスチナ/イスラエルの〈いま〉を知るための24章」 編者 鈴木啓之/児玉恵美

           なんと言ったらいいのだろう。無知、いや、「思いが及ばない」自分が恥ずかしい。「何も知らないことは最も幸せである」とは、怠惰の肯定であったか。知ろうとすればわかる。それをしないのは未必の故意だ。われわれは皆、そうした罪を持っているといっても間違いではないだろう。そんな気持ちにすらなる、それはもう、たいへんなたいへんな状況がガザに、イスラエルにある。均質な民族という幻想に守られた日本人には、受け入れ難い世界がここにある。皆、ショックを受けろ、ダメージを受けろ、悩め。落ち込め。で

          読書ノート 「パレスチナ/イスラエルの〈いま〉を知るための24章」 編者 鈴木啓之/児玉恵美