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(企画参加) 私の1冊


#今年の一冊

八田零さんの企画に、再度参加します。

19年前の小説です。 とても心に残ってたので
また読み返しました。
          ↓


あまりにも年数が経ったせいか、白かった表紙が
少し黄ばんでますね。見苦しくてすみません😅
重松さんは、心情と情景の描写が細やかで、リアリティがあってとても参考になりますね。

本書は七つの短編で構成されてますが、
後半の三つはストーリーが繋がってました。
         ↓
      その日のまえに
        その日
      その日のあとで

その日、というのは不治の病に冒された一人の女性が、家族を残してこの世から旅立つ日を表しています。

その日のまえに → 主人公の僕が、一時退院した妻の和美と新婚の頃に暮らしていた街に行き、2人でしみじみと思い出に浸る様子が書かれています。
余命数カ月の和美にとって、目に見える何もかもが、みずみずしく感じた、と……。


まもなくこの世から自分がいなくなる、と思うと
全て愛おしく感じるような感覚かもしれないですね。

最初に出会った時の神さまは僕に微笑みかけてくれていたが、二度目の神さまは違った。あわれむような目で僕を見つめてから、ゆっくりと、黙って、顔をそむけ、背中を向けた。歩きだす。もう用はすんだと言わんばかりに遠ざかる。一人ではなかった。神さまは和美の手を引いて、僕の前から立ち去ろうとしている。

P181

神さまは助けてはくれない。
なぜ、自分の妻が? 
なんて、神さまは無慈悲なんだろう。誰だって、神さまに文句を言いたくなるよね……。

年明けに二度目の入院をするまでに、僕たちは、たぶん一生ぶんの涙を流した。
子どもたちには悟られないよう、夜中の寝室で掛け布団を頭からかぶり、枕に顔を埋めて泣きじゃくった。
P197

愛する人が、数カ月後には永遠の眠りに就くって考えると、溢れる涙を止めることは無理だよね……。


その日 → 二度目の入院をした和美は徐々に衰弱し、やがてその生涯を閉じた。その前後のことが書かれてます。

血圧が下がり、熱は高くなり、延命処置に入ると
和美の両親と子供達も病室に駆けつけた。

悔しくないか? 
悲しくないか?
なぜ、おまえだったんだ?
健哉が言っていたとおりだ。
世の中にこんなにたくさんひとがいて、こんなにたくさん家族があるのに、どうして、和美だったんだ? どうして、わが家だったんだ?
悔しい。
悲しい。
P247

私も同じような状況になったとしたら、恐らくこういう心境になると思う。まだ若い伴侶が永遠の眠りに就こうとしてるのは、なんて理不尽なんだろう、と……。

神さまよりも人間のほうが、ずっと優しい。
神さまは涙を流すのだろうか。
涙を流してしまう人間の気持ちを、神さまはほんとうにわかってくれているのだろうか。
P249

もし、神さまがいたとしても、元々神さまは人類を救済するための存在ではないのかもしれない。
ただ、悲しみに右往左往してる人間を眺めてるだけではないだろうか。
だとしても、幾ばくかの慈悲を与えてくれてもいいんじゃない? って思う。

妻の和美が亡くなり、霊安室から自宅に帰ってくるまでにいろいろ準備するため、僕は帰宅した。
部屋に入るとバルコニーに出て、街を見渡した。

街を見渡した。和美のいなくなった街は、悔しいくらい、昨日と変わらない。一人の女性が死んだ。
家族をのこして、死んだ。街は、まだそれに気づいていないのかもしれない。
P251

そう、家族の一人が亡くなっても、街の景色は変わらず、世界はそのままあり続ける。
私も両親の死後、それを強く感じた。
人が一人いなくなったって、お構いなしに時は過ぎるし、周りの風景は変わらない……。


その日のあとで → 少しすつ穏やかさを取り戻していく、僕と子供達の日常が書かれています。

ある日、和美の担当をしていた看護師さんから、僕に電話がかかってきた。和美さんの手紙を預かってるので渡したいと。
手紙には一言だけ、こう書かれていた。

忘れてもいいよ、と。

僕たちは、少しずつ、和美のことを忘れている時間を増やしていくだろう。和美のことを思いださない期間が、少しずつ、長くなっていくだろう。もしかしたら、僕はいつか、和美の思い出よりも大切にしたいと願う女性に巡り合うかもしれない。
だが、和美が消え去ってしまうことは、絶対にない。ひとは、パソコンのデータをクリック一つで消去するようには別れられない。そんなふうには別れたくないし、別れてたまるか、とも思う。
僕は、和美のことを忘れる。
けれど必ず、いつだって、思いだす。
そのときには、お帰り、と言ってやる。
P288

仕事や何かに熱中して取り組んでると、亡くなった両親のことを忘れてしまう瞬間は、私もよくある。
だけど、完全に忘れるなんてことはない。
心の大事な場所に、両親が住んでるから。
目を閉じると両親が私に微笑んでいるような、そんな感覚。

恐らく、和美は家族に早く立ち直ってほしいから、
幸せに暮らしてほしいから、忘れてもいいよ、と手紙に書いたのかもしれませんね。

私が同じ立場なら、どんな手紙を書くだろう?

「私を忘れないで。何度流転しても、またあなたと巡り合うわ」
と書くかもしれない。
でも、こんなふうに書くと、ちょっと怖く感じるかな……?




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