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2021年のお正月の話。

今年の年賀状の書き損じは96枚。

パソコンは使えない。業者に宛名を頼むのは嫌なんだと。

そのため父は裏面が描いてあるハガキを購入し、表面の宛名書きは自分で書いている。

認知症になると、やる気がなくなり、外へ出ること、人に会うことも嫌になってくると聞いたことがある。確かに父は、一日中家のソファの同じ場所から一歩も動かない。移動するのはトイレと食事の時ぐらい。わたしが外へ誘い出そうと声をかけるも駄目で、母が買い物へ行く時にはなんとかついて行ったりもする。が、そんなに多くはない。

そんな父が年賀状を書くなんて。過去何年もずっと同じ手法だったけど、徐々に字を書けなくなっていたり視力も落ちてきていて、今年はどうするのか、辞めちゃうのかなと思っていたので驚きだった。宛名書き大変だね〜、頑張ってるね〜、お父さん偉いね〜といろいろ声をかけてみて、応援する。

去年もらったものを見本に、それはそれはゆっくりなスピードで一枚を書き、二枚目を書き、三枚目を書いて、とハガキを重ねていくと‥‥

どれが去年のものかわからなくなって、今書いてきた物を見本にまた書き始めてしまう。だからエンドレスでぐるぐると同じ住所を書き続けてしまうのだ。


私が横で様子を見ていると、父がそんなことを繰り返しているので

「お父さん、これ同じ人が何枚もいるね。間違えないように、書いた葉書はこっちの別のところにおいておくよ」と言うと、「余計なことをするな!」と怒りだす。

母とよく、そんな父の様子を瞬間湯沸かし器みたいだよね、と話しているのだが、まさにその通り。

今までの私だったらもう知らないっ!勝手にどうぞ。と怒って別の部屋に行ってしまうのだが、一年近く一緒に住んできたので、こうすることでなんの意味もないことを学んでいる。


父には絶対怒らないと決めている。

認知症の人は相手が怒っていると、自分も同じように怒ってしまうし、なんなら相手の何倍も怒ってしまうそう。逆に話している相手がニコニコと笑っていれば、今は笑う時なんだと自然と笑顔になるんだと。介護職の友人が教えてくれた。この話を聞いてから私は、父の前ではいつも笑顔でいようと心に決めた。それまでは毎日毎日喧嘩の繰り返しで、心が苦しかったから。

*

大切にしたい相手に対しては、いつも自分の中で決めていることがある。

認知症に関わらず、相手に変わって欲しいとか、なんで〇〇してくれないのと相手に求めない。相手に変わってもらうんじゃなくてまず自分が変わること。これが絶対だと思う。自分の人生、自分のストーリーは、自分にしか作れないんだから、今までの過去も、これからの未来も、考えすぎて不安な気持ちにならないこと。

今自分が生きている、この今を丁寧に一生懸命生きるだけだと思っている。

*

年賀状は当初の予定より、全然足りなくなってしまったので、再度書い直し、なんとか無事全てを書き終えた。年内には間に合わず、全て終わったのは1月2日。

それでも自分でやろうと頑張って文字を書く姿は素晴らしいと素直に思えたし、昔の父の姿が垣間見えたような気がして嬉しかった。


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