de、愛永遠彼(であいとはかれ)6話
由紀雄と由紀
初めての告白からもう3ヶ月が経とうとしている。あれからの俺の人生はガラリと変わってしまった、なんとなくその日をボーっと過ごしていたあの頃とは違い毎日を刺激的に今と言う日を楽しんでいる。
大人の階段を1つ登った俺に神は使命と責任を押し付けて来たんだ。
え?どう言う事かって?
そうだな、ならあの告白した後からの話をするよ。
返事を貰えたのは意外と早く7日を空けて8日目の朝だった、俺は大学に行くために支度をしていたら来訪を知らせるチャイムが二度鳴ったんだ。でも不思議なんだけど直ぐに由紀さんだって分かった······いや、チャイムの鳴らすタイミングが由紀さんだと気付かせてくれたんだろうな。慌てて玄関を開けるといつになく真剣な表情をした由紀さんが立っていて、とにかく大学に行くのは止めにして由紀さんを中に招き入れたんだよ。暫く沈黙が続いたんだけど痺れを切らした俺が「あの時の返事を聞かせて貰えるんですね」と口火を切ったんだ。由紀さんは小さく頷くと少し間を開けてから静かにそして今にも消え入りそうなか細い声で話し始めた。
「私とアナタは親子と言ってもいいくらい年が離れているわ」
俺は焦った···矢張り振られるんだって、でも納得はしたくなかった。だからその気持ちをって時に由紀さんは俺に被せるように話を続けた。
「アナタは言ってくれた、恋愛に年なんて関係ないって······年甲斐もなく凄く悩んだわ、年頃の娘がいるオバサンが何考えてんのって」
「そんな事」
再び遮られた俺は自分を主張する前にまずは先に由紀さんの話を全て聞くべきだって思った、だから口を紡ぎ真剣な眼差しを向けて話を聞く事にしたんだ。由紀さんもそれを分かってくれたみたいで1つ頷いてから話を続けた。
「正直迷惑だと思ったわ、それは理解出来るわよね?私達がお付き合いするとしたら当然共に歩きどこかに趣く。その時の周りから見られるのは私···あんなオバサンがとかママ活かとか。それに娘もいる、当然私は娘から嫌われてしまうわ」
意味が分からなかった、今の由紀さんはどう見たって二十代にしか見えないじゃないか、それに何故周りはそんな目で由紀さんを見る必要があるんだ?ってかなんで美由紀ちゃんが由紀さんを嫌わなければならないんだよ。
でも由紀さんはヤッパリ経験値が高い大人だった。俺の考えていた事を全て説明しくれた。
「インターネットが中心になったこの時代、そして不況の世の中。悲しいけれど年差がある男女が共にいるとそう言う風にしか見て貰えないのよ。それとね?驚くかもしれないけどどうやら美由紀はアナタの事が好きみたいなの、それなのに私がアナタとお付き合いをしてしまったら?さっきは嫌われるって言ったけどそれは間違いね?私はあの子に恨まれる」
言葉が出なかった······美由紀ちゃんが俺の事好きだってのには驚いた、それに世間の目の事も。
項垂れる事しか出来ずただ由紀さんの話を聞いていた俺の手を由紀さんはそっと触れて来た。驚いた俺は顔を上げ由紀さんを見たんだが何故か彼女は涙を流していたんだよ。凄い人だ···こんな若僧の戯言にここまで真剣になってくれたんだって。不思議と満足していたよ、フラレた事にショックを受ける訳でもなく告白した事に後悔もせず、ただ初めての告白が由紀さんで良かったって。そう自身で納得し解決した時に自然と俺も涙していた。そんな俺を見た由紀さんの挙動が可笑しくなっていた。まさかフラレた事で俺が泣くとは思っていなかったのだろうな、きっと今物凄くヤバイ奴だと思っているに違いない。でも安心して欲しいこれ以上深入りするつもりはないから、執拗に付き纏うような事もしないから。ハハハ今思えばだけどそんな事考えてたんだなぁ······いやぁ恥ずかしい。
でも分かるかなぁ。それだけ真剣だったんだよ、それでな俺は由紀さんに「ごめんなさい」って一言呟いたんだ。都合がいいヤツだと思うかもしれないけどその一言で全てを帳消しにしてもらおうってね。
また沈黙状態になってしまったんだ、切っ掛けは俺の「ごめんなさい」からなんだけど。すると突然握られていた俺の両手が痛むほど握られた、由紀さんを見ると何故か起こっていたんだ、でもその理由は直ぐに由紀さんが話てくれた。
「正直凄く困っています、半分はとても嬉しくて直ぐに返事をしたい、でも娘の事を考えてしまうとどうしても自分の気持ちにブレーキがかかってしまう」
「さっきも言いましたけど俺は」
「うん、由紀雄さんの気持ちは充分に分かっているわ」
「だったら」
でもその後の言葉が出せなかった、あんなに苦しそうな顔をした由紀さんを見てしまっては。俺はまた下を向くしか出来なかったんだ。
また沈黙が続いた、俺は諦めるしかないんだと自分に言い聞かせ絞り出すように声を出そうとした、でもそれをさせないかのようにまた由紀さんが俺の手を強く握りしめて来た。今度はさっきのより力強い、驚いて由紀さんの顔を見たら大粒の涙を流していた、そして·········
「アナタに覚悟があるのは分かっているの、覚悟が無いのは私······」
その後由紀さんは昔の事、親友に裏切られた事や元旦那さんのDVの事を話してくれた。中でも衝撃的だったのが美由紀ちゃんの事だ、俺は何も言えなかった。ただただ由紀さんの悲しみを聞くだけしか············。
でもそれでも俺は
そんな俺の気持ちを察してくれたのか俺の両手を由紀さんは自分の胸に押し当て
「こんなオバサンで良ければ私を幸せにして下さい」と言ってくれた。
由紀さんはほぼ毎日俺の所に来てくれる、俺との事は美由紀ちゃんには話したらしい。その日は部屋に閉じ籠もってしまい食事もしなかったらしいのだが、次の日に姿を見せてからはいつも通りになっていたようだ。
由紀さんは朝俺の所に来て朝食を作ってくれる、その後俺は大学に行き帰りにバイトしてから家に帰る。家に帰ると由紀さんが夕食を作ってくれているけれど食べるのはいつも一人だ、初め由紀さんは俺と一緒にって言って来たけど俺は美由紀ちゃんとの間は壊さないで欲しいとお願いしたんだ。ならばと由紀さんは美由紀ちゃんが寝るために部屋に入ってからは俺の所に来たいと言って来たのでそれは了承した。まぁ大人の時間って事だ。
由紀さんはとても激しく何度も何度も過去の記憶を忘れるかの様に俺を求めて来た。嬉しかった、俺はそんな由紀さんを全て真剣に受け入れたんだ。付き合ってから一日も欠かさず。
俺は由紀さんに愛し続けて貰う為に必死になり、いつからか健一と明日香とも会わなくなってしまっていた。特に明日香からのメールもまともに返信もせず。
ただ一度だけ·····好きな人が出来て今その人と付き合っているとだけ。
だけど二人だけの幸せはそう長くは続かなかった。