マエストロをしのんで
指揮者の小澤征爾さんがお亡くなりになりました。
コロナ前、小澤さんが腰を痛めていらした時期に、知人が勤務するホテルに宿泊なさったんですね。もう八十は超えていらしたのですが、健啖家だったよと知人に聞き、腰痛以外はお元気なのだなと安心しました。
クラシック音楽の指揮者は、五十代でもまだ若手という印象なんですね。来年のウィーンフィルのニューイヤーコンサートを指揮する予定のリッカルド・ムーティ氏は八十二歳ですし、私も八十代の方が指揮するコンサートを何度か聴いたことがあります。
なので、小澤さんもまたお元気になられて指揮をなさるだろうと思っていたのですが……。
クラシック音楽という枠組みを超えて、人気のある方でしたよね。
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などと書いていますが、私がクラシック音楽を聴くようになったのはわりと最近ですし、巨匠よりは若手の指揮者が好きだったり、曲の好みが偏っていたりするので、小澤さん指揮の曲はあまり聴いたことがありませんでした。
なので、今回、小澤さんが亡くなられたことをきっかけに、マエストロの足跡をたどってみたいと思いました。
まず聴いたのが、アップルミュージッククラシカルにある『はじめての小澤征爾』というプレイリストです。
(アップルミュージッククラシカルは、最近ローンチされたサービスで、アップルミュージックのメンバーは無料で聴くことができます)
このプレイリストは、例えばベートーヴェンの交響曲第七番の第一章というように、長い曲の一部を抜粋しています。チャイコフスキーの『くるみ割り人形』やホルストの『惑星』のようにクラシックを知らなくても聴き覚えのある曲もありますし、『ローマの松』『展覧会の絵』など綺麗な旋律の曲も多いです。気に入った曲があれば、そこからアルバムに飛んで聴けるようになっています。
spotifyにも似たプレイリストがありました。
その中から、個人的にすごく良い演奏だと思ったアルバムを二つ紹介します。
一つ目は、小澤さん指揮トロント交響楽団演奏の『ノヴェンバー・ステップス』(武満徹さん作曲)です。私は武満さんの曲が大好きで、色々な演奏を聴きましたが、小澤さんの演奏は世界初録音のもの(上記のプレイリストには別の演奏が入っていますが、トロント版をおすすめします)。琵琶や尺八が使われた、今聴いてもとても斬新な曲だと思います。
もう一つは、二十世紀フランスの作曲家、メシアンの『トゥーランガリラ交響曲』の演奏。これもトロント交響楽団で指揮なさったものです。かなり難しい曲のようで、『……?』と思ってしまう演奏も多い中、小澤さんは非常に美しく同時に情熱的に曲を作っていらっしゃると思います。
私は若い頃ポップスばかり聴いていたので、今もクラシックっぽい曲はあまり好きになれません(ベートーヴェンなど)。でも、クラシック音楽の中にはポップスやロック、ジャズと同じ気分で聴ける曲もあるんですね。『ノヴェンバー・ステップス』と『トゥーランガリラ交響曲』はまさにそんな曲です。クラシックは苦手だなと思う方、ぜひ日本を代表するマエストロの遺した二つの演奏を聴いてみて下さい。