ダブダブのパンツと犬たちの思い出
フォローしているカオルさんの、飼い犬にまつわる話を読んで、私もちょっと書いてみたくなりました。
我が家の犬ではなく、祖父母の家で飼われていた犬の話なのですが…。祖父母は山奥で農業をやっていたので、今思えば、ペットというよりは、番犬として飼われていたのかもしれません。名前は特になかったか、ポチとかシロといったありふれた名前だったのではないかと思います。
当時、私は犬が大好きで、近所の家で飼っていたルミちゃんが子犬を産んだ時には、一匹もらいたくて仕方なかったというのが、最古から二、三番目の古い記憶になっているほどです。でも、祖父母の家の犬は、ルミちゃんや他の犬とは違い、まるで愛想がない。私だけでなく、祖父母の家に同居している高校生や大学生のイトコたちにも、全くなつきませんでした。仕方ないので、ヤギの親子を可愛がり、餌をあげたり、話しかけたりしたものです。
ヤギも、子どもになつくような動物ではないと思いますが、都会っ子の私には、自分の手から餌を食べてくれるだけで、十分楽しかったのでしょう。
なつかない犬の存在は忘れていたのですが、牛小屋に子牛を見に行った時、柱につながれていた犬が私に吠えかかり、噛みつきました。多分、悲鳴を上げて逃げ出したのだと思いますが、そのあたりは記憶にありません。
覚えているのは、噛まれた箇所を確認したところ、ズボンとパンツが破れただけで、皮膚には異常がなかった、ということです。なぜか、母の大きなパンツを履いていたのです。
あの大きなパンツ。今の私は当時の母の年齢を超えましたが、お尻全体を覆う、あんなダブダブの大きなパンツは、下着売場でも見たことがありません。パンティーとか、ショーツとは呼べない、パンツとしか呼びようのない品でした。母は、別に太ってもいないのに、昭和の既婚女性は、皆あんなパンツを履いていたのでしょうか。
祖父母の家には一ヶ月ほど滞在しましたが、当然、私の下着も何枚も持っていった筈です。それなのに、なぜあの時、ブカブカのパンツを履いていたのか…? カオルさんの記事を読んで、何十年かぶりに思い出したことなので、前後関係がわかりません。祖父母や伯父伯母が集まって、「このパンツのおかげで、海人は無事だったずら」「良かったのう」などと話していた光景だけが心に焼きついています。
ちなみに、そのパンツは捨てられもせず、あと何年も母が履いていました。洗濯物を畳む時に、「あっ、あの時のパンツだ」と思い出したものです。横に穴があいているだけなので、履けはするのですが、何も犬が噛んだパンツを履き続けなくてもと思いますが、物持ちがいい我が家らしい話です。
その一件で、犬が苦手になったので、犬小屋を置くスペースのある家に引っ越しても、犬を飼う気は起きませんでした。動物好きの父は、犬や猫を飼えなくて寂しかったのではないかと思います。小鳥を飼っていたので、猫も飼えなかったのです。
自宅で飼う代わりに、父は、近所に住んでいた画家の鈴木さん(仮名)宅の飼い犬を散歩に連れて行きました。画家なので、取材旅行などが多かったんですね。鈴木さんが留守の時に、犬の世話を請け負ったわけです。
その犬は、源六という古風な名前でした。父にすっかりなついて、父が鈴木邸の前を通るたびに、門の前まで走ってきて、ワンキャン鳴いて狂喜乱舞したものです。源六を見ているうちに、また犬が欲しくなり、親に頼んだのですが、世話を押し付けられると踏んだ母が反対しました。小鳥の世話も、母が全部やっていたのです。私に任せたら、我が家の小鳥たちは夏目漱石の『文鳥』と同じ運命をたどったでしょう。
ところで、源六の飼い主の鈴木さんはキュビズムの画家ということで、感性も独特で、源六と連名で我が家に年賀状を送ってくれました。
鈴木 太郎
源六
と書かれた年賀状がなぜかツボにはまり、小学校で友だちに話したので、源六はちょっとした有名犬になりました。
ところが、今年もまた源六の年賀状がもらえるかなと楽しみにしていた時期に、源六はフィラリア症で死んでしまいました。今は、予防薬もありますし、室内飼育が多いので、滅多にない病気かと思いますが、昭和時代は、犬の飼い方もいい加減だったのでしょうね。
寡黙な父が悲しみを外に出すことはなかったですが…。源六を偲ぶ気持ちもあるのか、ここ数年の実家の年賀状には、
佐藤 次郎
花子
海人
と、パグの海人も名を連ねています。カイトという名前をつけたのは私ですが、こんな漢字を当てられたのを見て、ずいぶん立派な名前だなと思ったことから、自分のnote名に流用しました。犬の名前を自分の名前にするのは、インディ・ジョーンズを真似ました。
カオルさんのおかげで、祖父母の犬や源六のことを久しぶりに思い出しました。カオルさん、ありがとうございました。
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