意識高い系の脱毛
僕は清潔感というものをここ2年ほど突き詰めている。
清潔感がどれだけ大切かは、痛いほど痛感しているからだ。
食事制限で15キロのダイエットをし、筋トレでアスリート体型になり、オシャレな店で服を全て買い直し、清潔感を出すためにやれることはすべてやったと思っていた。
いやまだ終わってなかった。新たな戦いが待っていたのだ!
それは髭の永久脱毛。
僕はもともと髭が濃い。特に20代後半までに一気に濃くなった。
実は28歳の時に、とある美容クリニックで一度髭の永久脱毛をしたことがある。
その時、確かに頬の青髭はなくなったが、口回りの髭について濃いので、自分が契約した9回レーザー照射コースでは薄くなった程度であった。
そもそも髭の濃い男性が9回のレーザー照射程度では、消えないのだ。
それでもその時、追加で髭の脱毛はしなかった。なぜならレーザーで髭を焼き切るので、むちゃくちゃ痛いのだ。
例えるなら輪ゴムで、顔をバチンバチンと打たれてるような痛さだからだ。
コンプレックスになっていた頬の青髭がなくなったのでいいやと満足してしまった。
最近は、コロナでマスクをつけるようになっていたので、素顔をあまりみられなかった。
なので意識なんてしていなかったが、マスクを外してもよくなってきた今だからこそ、髭の脱毛しようという境地にたどり着く。
過去に髭の脱毛した時には、コンプレックスの解消が目的だったが、今は「清潔感」を出して、よりモテたいというギラギラした欲求が僕を突き動かしている。
だから、レーザー照射だってかかってこいやという心模様なのだ。
髭の脱毛を再開することにしたのは、以前通った美容クリニックだった。
美容クリニックというのは、ホントに「美」に特化しているだけあってか、患者も受付スタッフも看護士もみんなキレイなのである。
髭の脱毛を6回コース5万円越えの新規予約し、施術1回目の際に契約金を支払うという流れであり、久々に通う僕は気合いを入れた身だしなみでクリニックへ向かった。
クリニックの前にたどり着いた時にあることに気が付いた。
財布を家に忘れてきた。
前にも似たようなことがあり、このノートに投稿したことがあったが、またやってしまった。
説明しよう!
僕は仕事が忙しくなると、プライベートがおそろかになり、たまに財布を忘れて出掛けてしまうのだ。
こういったものは慣れなので堂々と立ち回ればなんとかなるものだ。
ないものはないのだからしょうがない。
美容クリニックの受付では、百戦錬磨のような美人な受付の女性(以下カウンセラー)がにこやかに、微笑をうかべながら挨拶をされる。
そんな素敵なカウンセラーに対して僕は、「おはようございます。10時に予約した網村です。申し訳ないのですが、財布を忘れまして…どうしましょうか」と先制のパンチを食らわせてしまう。
大変申し訳ないが、ないものはない。
カウンセラーは、僕の予想外の攻撃に虚をつかれたのか「へっ!?」と声を出す。
「申し訳ありません。当日キャンセル扱いにされたとしても文句はいえません。キャンセル料が発生するならちゃんと払いますので!」と堂々と、誠意を込めた謝罪をしたが、その時の僕の所持金は小銭入れにある150円しかなかった。
150円で脱毛をしようとするとはだいぶなめているなと今は思う。
心意気はすぐにでもキャンセル料を払うつもりだったが、物理的にはムリだった。
しかし、百戦錬磨のカウンセラーは、気を取り直して、「お客様が本日またいらっしゃることが可能であれば、キャンセルではなく、予約時間をずらした再入場扱いにさせていただきます。何時ならまた来院可能でしょうか。」と機転の利いた寛大な申し出をしていただく。
僕は「寛大な処置をありがとうございます。本日1日時間は空いているので、そちらの都合がいい時間に戻ります。こちらのミスなので時間については仰せのままに。」とまるで家来のようなへりくだった態度を取りつづける。
カウンセラーは、僕の発言に吹き出していた。
再度予約を取り直し、一度自宅へ帰り財布を取りに行き、午後2時頃、先程のカウンセラーと対面し、よーくお礼をいい契約を取り交わす。
そして、予想通りのレーザー脱毛により、輪ゴムでバチンバチンと当てられるかのような痛い思いをしたが、その日は心も痛かった。
僕は生かされてると思わざるを得ない1日だった。
数日して、鏡を見ると確かに髭が薄くなっていることがわかる。
色々あったが、やろうとしていることは間違っていない。
今後は、小学生が学校に登校前に、名札とハンカチとティッシュがあることを確認するように、財布と携帯と小銭入れだけは確認しようと誓う。