荒野のガンマン 詩5篇
死亡遊戯
ふざけるなよ
ガラス窓の蠅
六本足っていうのは——(控え目に言って)多すぎやしないか
それも——(率直な感想)あまりにちょこまか動きすぎやしないか
あまりに——(おれたちの基準では)脚のちょこまかと 体の動くスピードがあまりに均衡をなくしていないか
つまり
のろいのだ
だからおれたちは秋の蠅を殺すのだ
埋め合わせに呟きながら
ふざけるなよ。
2020.9.4
いつからそうなったんだ?
膿まみれで
犬を
ひき殺す
犬の
詳しい
描写は
検索を
してみてください
黒縞の
茶色い犬
二枚目の
犬
それにしても
いつから
こんな膿まみれになっちまったんだろう?
2020.9.4
部屋から出ないで、とニュースキャスターは言っていた
まだ曇り空だ
ウイスキーの
氷が溶けるのを待つ
雨を待っているわけじゃない
僕は部屋の中にいるから
追われるように——逃げ出して この団地
風呂に湯沸かし器があるといいけど
それでも満足している
僕には僕の部屋
僕のチェスが出来る空間
チェスをやったことがない
夜空が曇っているうちに
大切な人に忘れられないうちに
チェス盤なしのチェスを始めてみようか
ちょうど
窓の向こうで雨が響きはじめた
僕の部屋に壁と屋根がある
ウイスキーを隠れ飲み干しても
2020.9.13
解名
つきあっていた
女性の名
さんずいが付いている
今の妻の
名
さんずいどころか
どの文字の部首の名前も知らない
「爪が割れた」
部屋に入ってくるきみの
傷口より
きみの名前を構成する文字をさらに構成する部首を知らないんだ
知らないのは
それだけかい?
僕は自分の肛門のかたちすら知らずに死ぬのだろう
きみと
僕の名
対して
昔の彼女の名を 分解しても
技術館に飾られるわけじゃないんだ
2020.9.13
荒野のガンマン
モデルガンを持っていなかった
昼の丸山球場
夜 家に父と母がいた
覚えてるよ
父さんが
母さんにドライヤーを投げつけるの
次の午前中
丸山球場には
僕を射的にする同学年生もいなかった
昔 巨人軍の試合が来たという
ごみまみれのグラウンドで
僕は指鉄砲を撃った
「が、が、が、が、が!」
どうしようもない歯車じかけに
ドライヤーを投げつける代わり
「だ、だ、だ、だ、だ!」
雲の多い晴天だった
2020.9.13