幌馬車 詩5篇
鶏頭
移動教室の
鶏頭を描写せよ という課題に
鶏頭だった と答えた
それにマルかバツがついたのか
どうでもいい
ひとつ確かなことに
僕がそこでいたってことさ
2020.8.29
すばらしいループ
睡眠薬をのんで
iPhoneを充電して
さあ、これから
さあ、これから明日のシミュレートを
限られた——どれくらい限られたのか知らない明日の
真似を
今もまだしていない
夜の雨。
まったく何て音なんだ
さあ、これから
さあ、これからだと言うのに、
2020.8.30
八月尽
八月が終わる
ゆっくりと死んでゆく(誰が?)
たしかに死んでゆく(誰もが)
短い詩の
はじまる前とおわった後で
不可視の僕が
いっそう僕をつくりあげる
短い詩の
さなかに僕は
僕になることを
僕をすることを
忘れる
それだけの短い詩
カレンダーの八月前後には七月九月がある
ありつづける
そんな理屈は
もう通用しない
2020.8.31
漬かる
漬物樽
建てられなかった
塔の
地下に
建てられなかった
塔は
跡でさえなく
かえりみる人の
ない
ましてや地下室に
時間
時間
時間
すべての上に(下に)
時間
蕪は腐らなかった——誰も蕪を漬けなかったとして
2020.9.1
ハッピーリバースデー
壊。
ほんとうにこわれてしまうもの
うそでもこわれてしまったもの
僕はドアの前に立てない
鍵は回せるか?
そもそも、鍵穴はついていたのか?
そうやって訊いてくるのは誰なんだ?
この不確定な団地で
僕だけが(だ、け、が)わかっているのは
訊かれているのが、自分、であること
かもしれない。
壊。
壊れてしまった
ドラえもんの誕生日——
2020.9.3
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