ラグランジュ・ノート(群像) 川柳80句
岸壁をうたがう俳句甲子園
ジュリエットひとり釣り堀大爆破
トング連盟ふえてゆく舎の美豚
ラグランジュ・ポイントずれる蠅の王
アスファルトについて述べよカツオの忌
群像劇にいつまでも麩菓子盗る
だばだば杉の枯れてゆくインチ法
坂のなか数の小説ななめ書き
識閾に三ツ矢雄二のコーヒー屋
訛なき日々のブッデンブローク家
耳鼻科用牛乳瓶の熔かしかた
ラ・ロシュフコー成田山のぼる・秋
豚カツの風景という電信社
猿蓑にあきすとぜねこ唱えつつ
神死んでキャベツ時間のはじまれり
悪役とぶ町の中日新聞社
しなちくの美が落丁す昼の町
柳沢教授仆れる地鎮祭
スタニスラフスキーの壁ぬけ講座
うら若き老中たちの目にさなぎ
迷宮に死にあっている杜氏と杜氏
チョリソーのとだえ少年週刊誌
カフカ坂停留場の脳いじり
暗室にうどん粉みちる秋の果
門推せばサダム・フセイン美術館
天保のマイクテストに誘われる
誘蛾せぬ家の落窪物語
バイク盗んでどこからがゼリー都市
村正にゼリービーンズ投げつける
キャベツから所沢市にいる暴徒
童貞とメイフラワー号の連鎖
俗に言う延髄菩薩との対話
ドンジャラに逆光性の比丘尼群れ
レの音をきびしくも聴く蹴球部
野球部のサラダ記念日秋暮るる
おのおのの朝青龍に輪廻する
地球儀につるべ落としのある処
動線にドグラ・マグラのごっこ終ゆ
キンゼイ・リポートを覆う笑い茸
裸体像塗ってドジャース野球軍
ゴム飛ばす天動説の弓教授
囮なす有村架純へのわかれ
モンティ・パイソン補陀落へ渡海して
ボクサーのすべて入らず東大寺
紙コップ宇宙に消える選挙前
豚汁がなくて並行宇宙論
墨攻の時間にもみじおろしする
カナッペのはんぶん配る文京区
はちまきに輸入ゾンビが縫ってある
秋昼に小池栄子の靴盗む
手でこねるアホの坂田のグレタ像
野球人口減ってゆく殿様ズ
バルタン星人の自慰にとまる時
目測の石貨の数のあるまじろ
ケロイドと山脈つなぐ白い虹
痴をもって知となす地方作曲家
エンディング・ノートに鯊がしつこい画
喪失の上野さんちの阿古屋貝
形容が移動盆地のラヴホテル
花仙紙にアメリカひじき筆写終え
人間の土地に撒かれる天ぷら粉
木更津のレコード迅し風の色
番茶でもあるかのように縛る縄
交響に王子人間洗濯機
にわとりを忘れこの世の夕焼ける
コンソメに爛れた脳をえらばせる
王さまははだかモロボシ・ダンを抱く
ブロディの異常漢字をみて帰る
光市に鯉焼くけむりのぼりたつ
イトマンと二重に写る龍のこと
文学のキッチンに立つ桃太郎
蝦夷らをかざす産婆の記憶術
演劇がへんぴな土地のコッペパン
弾きピアノ倒叙トリック尽きはてて
微生物都市から秋の暮れてゆく
十月のスプーン曲がる脳びらき
夜の辞書ページをひと夜ごと破く
大和芋同時存在するカメラ
SMとAIの間にロビンソン
民族の祭典内に峰不二子