三つ数えろ 詩5篇
氷雨
ところてんの酸っぱさ
だけを
頼りに
エド・ウッドにも耐えられそうな
南半球の夏
からの
側転
体の軸に
心の芯に
同時に降る雨は
舌を伸ばすと
たたきつけてくる水滴に
僕が自分でなかったかもしれない
ふたつの味が炸裂して
ガラスの小鉢を乳牛配達員の正確な粗雑さをもって
置いた
場所は
地球にひとつしかないのだった
大きく〈1〉を記して
夜——
2020.11.22
風呂場のマイク・タイソン
精油
浴槽に振って
それから
裸の自分が
やはり自分でしかなく
やはり大嫌いだと思う
それから
風呂桶をかき混ぜて
かき混ぜて
何かを考えていたい
何かを
何でもいいから
ふと
ティーツリーの香りが刺さり
うっすら油の浮いた水面を
見た
なんてことだ
僕は
見ているじゃないか
嗅いでいる一瞬
現象を
2020.11.26
ラジオ・デイズの昼休みの終わり
ラジオを壊す
うちにラジオなんてあったのが奇蹟だ
奇蹟を信じるな
信じるということを信じるな
信じないということを信じるな
……S1,S2,S3,S4,S5……
数式がすべてを表す
——〈すべて〉?
ただ言えるのは
周波数
世界に数があるということの
ひとつの例として
僕はダイヤルを回したが
北の国の宣伝電波と混線する
のも
ただ今だけのこと
ここに金槌がある
今は太陽が冬にのしかかっている
僕は ここで 今
ラジオを壊す
数式の絶対的な解答
2020.11.26
空想と空白
僕が持っていない
ペーパーナイフ
を
空想上の引き出しに入れる
銀色で
ところどころ錆びつき
人を切れない刃の
あちこちに欠損がある
その特徴の何をも見ないようにして
引き出しを閉める
こんな静かな昼
に
僕は持っていない物体を考えている
階下
に
郵便配達夫のバイク
あの封筒
を
どうやって開けよう
封筒
も
無いものとして
開いても
便箋に空白があるだけなのだった
2020.11.27
言葉と物
きみがメリケン粉の桶に沈むように眠っている
きみを主語にした文章
それ以外
——以外だって
僕ができるサボテンの栽培方法がない
まちがえた睡眠薬
まちがえた僕のサボテン育成方法
まちがえた僕の言葉づかい
——サボテンの育て方ではなく
そこに
別の言葉を代入してください
と言葉を掛けても
きみはびしょ濡れの洗濯物のように眠っている
きみを主語にした文章
ただの
喩えさ
2020.11.28