麗しく（原子心母の瑕）　　川柳80句

うるわしくデヴィッド・リンチ北枕

奥村という説得を思いつく

一芸をとどめてメトロポリスの日

李賀の詩をベルリンという蓋に書く

藤村と言いあらわせぬことを言う

ことば派は逆襲したかテレヴィデオ

一階に神をむかえるシチュー皿

一政が多重言語で立っている

流星雨間下このみのふとりつつ

レナードに前夜あるべしマグロ漁

サボテンをなんど落として過疎の街

めいさくの死なない章魚のころしかた

鬱屈の詩人とかえておくペンキ

色界にネオテニーする盆踊り

番茶なき眼球譚を詠みなおす

大奇術地震の國の野球盤

隣人を傷つけてゆく珍魚展

ふた親がかわりばんこにみる死犬

アラスカの残暑を妻が吐きだしぬ

産婦らにかくまでにがきトトロの茶

墓まいりわれらのだれも刺青せず

杜甫という古墳めぐりをしないひと

クソコラに肉体として暑い秋

鈍痛に泣いてキテレツ大百科

団員を草壁メイとしてなぐる

くまを棄てたちまち終わるうつつの世

タイソンの首につながる父を呉れ

言語野に壁たちにけり花煙草

誤嚥してその時時計くるいけり

特急を蠅と同時に乗り降りる

文体がかわって秋の汗みどろ

道ゆがみ巨人ならざる影みっつ

自傷して頭脳の場所をおもいつく

信長を踊って妻にたどりつく

母抱きしことなく秋の蟬の坂

おとがいを感じるままのハッキング

妻病んで密室グッド・モーニング

ぴかぴかをトリケラトプス屋に求む

おのがじし消しゴムはんこたまる日々

双頭のままにわたしわたしが老いつかれ

皇后のポケットベルが震ふれたまう

精神を分析しても盆荒るる

あらためて九九そらんじる五輪中

伊那市から不安の國の箸を折る

高遠へバビルの塔の建築車

《種の起源》寮にのこして乳を吸う

つた腐り薬子も腐る時のはら

壁の町夫婦にとおき喫茶店

チャリンコをしばらく漕いでスパイの死

全国の双葉社地図にバツ印

罰として溺れもならず乳の海

月餅と爪かんでおり月市民

ひとを辞めおのれのなかのちびまる子

ケロイドが自我のひとつである残暑

一詩成るきのうから成るながい糞

敦盛がウラシマ効果してかえる

グレゴール・ザムザの棚に肥満美女

かさ蓋をひき剥がしきる詐欺メール

ガンジーのいない駅舎に秋の蜂

病的にマットととのういなびかり

山の日がシーラカンスをしあげる日

はなみずがとまらずわれの地動説

つなぎ着て体制側の棒倒し

ラカン派にむしりとられる腕時計

ガウディが潜水箱をつかうヤマ

ウォーリーをはべらせておく色畳

死後の後と秋蚊のあらずメタ言語

迷路でて他人の胎児うつくしき

つねりあう不死のケロッグ博士軍

ホベルトが反小説に夕焼ける

細胞をひねもすかぞうスヌーピー

棒立てて菅井きん忌にたおしけり

駅弁を山田かまちの忌にくばる

蛾へと我をリリエンタール忌にぶつけ

地震國渡哲也の忌がすぎる

わがエモき魔法少年少女団

八月のジョイスティックにまた触れず

貧民の弓なりをみていた実話

画具すてて鬼教官の蟇股

吾をのろえ安孫子素雄のまんだら屋

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