マガジンのカバー画像

二十九歳からの不安定生活入門

6
二十九歳の春。 気の毒なほど優しい團さんと、あけすけで大雑把な篠宮に見守られながら、不安定な暮らしと仕事を始めた。そんなフィクション
運営しているクリエイター

#新生活をたのしく

3月6日 テレワークをする

3月6日 テレワークをする

 キンカン、と手元で音を鳴らしているようなインターホンが鳴る。居室の戸を開けて布団をひいており、廊下から玄関までが寝た体制で見通せる。廊下は暗く、覗き穴からの光が控えめに青く光っていた。キンカン、がもう一度。私は居室の戸を閉めて、綿入り半纏を羽織り、團さんを出迎えに行く。

「災難だね。俺も気胸は五回くらいなったんだけどね、昔。今回初めてでしょ、手術しなくていいの。」

がいがいがい、團さんの口癖

もっとみる
2月22日 家が決まる

2月22日 家が決まる

「お前、もうしばらくそっちに住んでもらわんとなあ、すまんな」
川本次長がたいへん申し訳なさそうに、そう電話をかけてきた。広島で、家を探すことになった。もちろん家賃は会社が出してくれるし、マンスリーマンションで会社が指定してくれる物件の中でだったら、どこに住んでも良いと。團さんも篠宮も、鹿児島から広島に引っ越して、現場と下宿の往復を続けてもう二年近くになるらしい。

そういえば、転職前の会社は、親元

もっとみる