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松下幸之助と『経営の技法』#317

12/28 悲観することはない

~自分が恵まれていることを思い知り、困難にも悲観することなく、働いていきたい。~

 窮状に陥っても悲観しないことです。自分は財産が一瞬にしてなくなったことがありました(注:太平洋戦争終戦後のことらしい)。しかも莫大な個人負債ができたんです。しかしこれでも死んでいる人よりましや、弾に当たって死んだ人もたくさんあることを思えば、ありがたいことや、そう思ったら悲観することはない。それで歓喜をもってこの困難に取り組んでいこうと考えてやってきたと思うんですよ。
 普通は首でも吊ってしまわなければならないほどの困難な状態ですわ。けれども首も吊らなかったということは、もっと不幸な人のあることを知って、僕は恵まれている、こんなに恵まれている自分は幸せや、こういうことを考えたと思うんです。それで悲観せずに働いたことがやはり成功したんやと思いますな。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、経営者にはしっかりと儲けてもらわなければなりませんが、逆に言うと、投資家は経営者の資質を見極める必要があります。
 その観点から見ると、苦しい状況でも簡単に放り投げるのではなく、責任持って事業を遂行し続けてくれるだけの精神力が必要である、ということがわかります。
 能力、経験、知識など、スマートに事業を成功させる側面に光が当たりますが、そればかりではなく、苦しい状況を堪え、克服できる強靭な精神力も、経営者には必要なのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 辛い状況でも、会社が組織としての形態や機能を維持することは、簡単ではありません。従業員にも生活があり、将来が不安であれば、自分の生活を守るために会社を離れてしまいます。従業員が減り過ぎると会社組織を維持することが難しくなります。
 しかも、次の仕事を見つけることが比較的容易な従業員、つまり、優秀で、会社のためにぜひ残って欲しい従業員ほど、状況判断ができますので転職活動を早く始めますし、転職先も比較的容易に見つけます。
 そうすると、会社が辛い状況にある場合、経営者は優秀で必要な人材を会社に繋ぎとめることが、組織を維持するうえで重要な仕事になります。
 しかも、辛い状況にあるので、気前よく報酬を増やすわけにはいかず(もし、安易に報酬を増やすと、かえってその現実性を疑われます)、かと言って、特定の従業員だけを依怙贔屓すると、他の従業員の離反を加速させてしまいます。
 やはり、ここで松下幸之助氏が話すような意識を共有し、今が辛い時期だが、これを乗り越えるときっと良いことがある、と説き続けることが、一般的に有効な手法でしょう。

3.おわりに
 逆境を肥やしにすることは、多くの偉人や経営者が語ることです。
 けれども、松下幸之助氏は、逆境を経験しなければならない、ということまで言いません。例えば、12/1の#290では、順境にあった経験にも価値がある、と話しています。
 考えてみると、逆境を克服した経験が自分にとって有意義だったから、それが必要なこととして他人に求める、他人に苦労を押し付ける、という発想は、自分が自分の成功体験に囚われていることであり、多様性を受け容れられないことであります。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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