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松下幸之助と『経営の技法』#83
5/8の金言
瞬間を争う大事な事柄は、一刻も早く、上の人に報告すべきである。
5/8の概要
松下幸之助氏は、以下のように話しています。短いので、そのまま引用しましょう。
今日、各業界、各企業の間における競争というものは、非常に激烈なものがある。そうした時代にあって、瞬間を争う大事な事柄を報告するいわば非常の場合に、何としてもまず直接の上司に言わねばならないんだとか、やはり組織を通じて処理しなければ叱られるんだとか言っていたのでは、競争に負けてしまうというようなことにもなろう。
だから、ここで皆さんに強く望みたいことは、“是なることは一刻も早く上の人に知らせる”ということである。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
ここでの松下幸之助氏の言葉は、現在で言う「報連相」の重要性に関する言葉です。「報連相」の内容については、報告・連絡・相談という言葉の意味から明らかですので、特に検討しません。
問題は、特に緊急時の報告方法について、正規の報告先をすっ飛ばしてでも上(経営レベル、という意味でしょう)に報告しろ、としている点です。すなわち、本来のプロセスを壊すことから、デュープロセスの持つ機能、すなわち、経営判断の合理性を高め、経営判断の合理性を高める、という機能が害されている面があるのです。
けれども、実質的に見て、デュープロセスの形式を守るために、緊急時の対応を誤ることは、本末転倒です。形式的に見ても、デュープロセスはリスクをコントロールするためのツールであるところ、これは、リスクや状況に応じた対応を要求するものであって、画一的な対応を要求するものではありません。時間や人員が限られているのに、完璧な対応が必要、とするのではなく、それぞれの状況に応じた十分な検討がされれば十分なのです。
このことから、緊急時には社内手続きを柔軟に解釈し、迅速に決断するために必要な情報を迅速に集めることが推奨されているのです。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者を選ぶ際の参考にすべき経営者の資質が問題になります。
この金言を基に考えてみると、一方で、しっかりとしたプロセスを作って日常のリスクを適切にコントロールしつつ、他方で、いざというときにはこれに縛られずに柔軟に対応する、というバランス感覚が必要になります。
この両方をバランスよく保つことは、実は意外と難しいことです。というのも、ルールの徹底を図ると、ルールに固執し、その例外対応を悪として忌み嫌う、融通の利かない組織になり、逆に柔軟性を強調しすぎると、原則ルールが例外対応によって壊されていき、本来のプロセスが守られなくなってしまうのです。
このように、安定した原則ルールと、柔軟な例外ルールを両立できるバランス感覚と、それを徹底させられる指導力が、経営者にとって重要になってきます。
3.おわりに
松下幸之助氏のこの言葉が出されたときに比較すると、現在の方が、より競争が厳しくなっています。その中で、経営のかじ取りがより一層難しくなってきていることが、この社内プロセスの問題という面を見るだけでも容易に理解されます。
どう思いますか?
※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。