松下幸之助と『経営の技法』#57
4/12の金言
喜びを知る。ありがたさを知る。いつも感謝の念を忘れない。
4/12の概要
松下幸之助氏は、以下のように話しています。
知人から、以下のようなアドバイスを受けた。「(憂鬱病)の原因は、極めて簡単や。君は喜びを知らんのや。ありがたさを知らんのや。言い換えると感謝の念がないから、そういうような寂しさに陥るんや」「もしそういう点をよく考えたら、この世の中というのは、非常に楽しいものだよ。どういう問題が起こっても決して心配は要らない。問題が起これば起こるほど、感謝の気持ちとともに、勇気が凛々として湧いてくるんだ。」
自分も、「喜ぶべきことに対して憤慨してみたり、いろいろ煩悶して心身の働きを弱めていた」と反省し、自分の見方をもっと大きく広げなければいけない、自分の心を正しく立て直さなければいけない、と考えた。
1.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
特に、感謝の心は、古くから言われることですが、これを経営者個人の心構えの問題として見るのではなく、経営の問題、すなわち組織として他人を動かす際の問題として見てみましょう。
松下幸之助氏自身の言葉としては、4つのことに触れられています。①(組織として)喜ぶべきことに対して憤慨する、②(組織として)煩悶して心身の働きを弱めるべきでない、③組織の見方をもっと大きく広げる、④組織の心を正しく立て直す、です。
これを前段部分(知人の言葉)と合わせて読み、以下のように解釈してみてはいかがでしょうか。
① 困難に憤るのではなく喜ぶ。
これは、多くの経営者が様々な言葉で表現していますが、例えばインフラや社会の変化などに由来する困難の場合には、他の会社も同じ状況にあるので、むしろ先に抜け出せればチャンスであると考え、自社製品の欠陥や会社のミスに由来する困難の場合には、これを克服すれば自社製品や会社自体がより強くなると考える様な方法で、困難を活かす検討に着手することがイメージできます。
② 困難を必要以上に深刻に受け止めて企業活動を低下させない。
これは、リスクが具体化した状況への対策だけに振り回されるのではなく、冷静に事態を分析し、過剰な対応をせず、通常の企業活動の継続に努め、従業員の士気を鼓舞する場合がイメージできます。
③ 困難の中にチャンスを見出せる組織となる。
これは、リスクが具体化した状況にあって、リスクが具体化した原因や影響を分析し、新たなリスク対策を検討し、さらに、リスクをより適切にコントロールしてリスクを取れる可能性を模索する場合がイメージできます。
④ リスクを避けるだけでなく、リスクを適切にコントロールし、チャレンジできる組織となる。
①~③が、リスクの具体化した状況を前提にするのに対し、これは、リスクが具体化していない状況での会社の在り方であり、特に、リスクへの関わり方に関することと位置付けられます。すなわち、委縮してしまってリスクを避けることばかり考える組織ではなく、リスクを取れる組織、すなわち健全な組織を心がける、という日ごろの政策や活動がイメージできます。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家である株主と経営者の関係として見た場合、適切に危機対応する(②)だけでなく、リスクコントロールし、リスクを取ってチャレンジできる(①②④)ように会社を経営できる人物を選ぶ、ということになります。経営者は、投資された資産を活用して「儲ける」のがミッションだからです。
ところが、ガバナンスの問題が議論される場合、ともすればリスクに気づいてリスクを排除することにばかり注意が向けられます。リスクは全て「回避」しなければならない、という発想であり、これは投資家と経営者の本来の姿に反します。リスクを取らないところに利益はありませんので、避けるためにリスクを感じとるのではなく、取るべきリスクを見極め、適切にコントロールし、リスクを取る決断をするために、リスクを感じとるのです。
3.おわりに
一人で孤独に困難に立ち向かうことは、非常に辛いことです。
けれども、会社の仲間と一緒であれば、励まし合い、助け合えますので、少し楽になるでしょう。
経営者個人への言葉のようですが、これを組織経営のための言葉と置き換えることには、このようなメリットもあるように思います。
どう思いますか?
※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。