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経営の技法 #44
5-6 企業保険の活用②(保険の検討過程)
企業保険は、もちろん保険を掛けることに、リスクコントロールとしての機能があるが、企業保険の導入を検討すること自体が、リスクセンサー機能やリスクコントロール機能となる。
<解説>
1.概要
ここでは、以下のような解説がされています。
第1に、企業保険には、リスクコントロール機能だけでなく、リスクセンサー機能を高める面があることを指摘しています。
第2に、日本では未だに多くの会社で、リスク管理部門すらおかず、だからと言って本当に保険を必要とする部門以外の部門に企業保険を担当させているため、ニーズに合致しない保険に加入している事例が多い、と指摘しています。
第3に、火災保険の下限を設定する場合を例に、現場工場だけでなく財務部門も巻き込むことが、リスクセンサー機能を高めるうえで有効である、と指摘しています。
第4に、保険の下限と上限を皆で議論することで、どのような事態がどのような頻度で想定されるのか、等の認識を社内で統一することができ、リスクコントロール機能も高まる、と指摘しています。
第5に、事業会社自身がリスクを把握することの重要性を再確認しています。
2.「下限」の効能
本書では、「下限」の検討過程に焦点を当てています。
しかし、「下限」には、その他のメリットもあります。
1つ目は、本書でも簡単に言及していますが、保険料の削減です。
支払われる保険金自体は少額でも、事故の調査費用など、様々な事務費用が掛かりますので、保険金額の小さい部分は意外と保険料が高くなります。その部分を、自社でリスクをとる、と整理してしまえば、場合によっては大幅なコストダウンが図れます。
そして、その浮いた分の保険料を、保険代理店に「お任せ」だと気づかれず、補償に入っていなかったリスクについて、新たに保険や特約を付けることが可能になり、実態に合った保険に作り替えるきっかけとなるのです。
2つ目は、自社のリスク感度の向上です。
少額の事故は自己負担、ということになれば、現場も事故防止に対する気持ちの入り方が変わってきます。その結果、事故率が下がれば、保険料も下がっていきます。
自分自身でリスクを知り、リスクをコントロールすることが、メリットになることを実感できるのです。
3.おわりに
本書では、「上限」「下限」を皆で議論することの効能を検討していますが、その際には、ぜひ財務部門も仲間に入れてください。
それは、様々な事態のシミュレーションを、想定されるお金の動きで示してくれるので、参加者の認識をより具体的に一致させることができるからです。
いずれにしろ、本来オーダーメードが原則の企業保険です。誰かに責任を押し付けて、会社に合わない保険が仕立て上げられても、保険料がもったいないだけでなく、無防備にリスクを取ることになり、大変危険です。
仕立てる保険(洋服)のどこが合わないのかを判断できるのは、それぞれの現場や財務など、それぞれの保険でカバーされるリスクに関わる部門です。多くの部門の意見を聞くことで、会社に合った保険が仕立てられるのです。
※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月