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松下幸之助と『経営の技法』#148

7/12 チームワーク

~個々の力を養成すると同時に、個々の力を調和させる必要がある。~

 会社というものは、個々の社員の実力が高まることが肝要です。皆さんが個々に成長していけば、皆さんの会社の実力が高まることになります。しかし、個々の実力が高まったからその会社はうまくいくかというと、必ずしもそうではありません。個々バラバラではうまくいかないのです。それをうまくまとめていく力がその会社になければいけません。また、その力があるからもう安心かというと、そうでもないのです。
 というのは、会社に力があっても、それをはね返すというか、弱める力があっては何もなりません。だから皆さんは、個々の力を養成すると同時に、養成して高まった個々の力をいい意味に調和させるチームワークをとることが大切です。野球でいえば一塁手が絶えず二塁手の立場も見守っているといった、そういうチームワークをとることに、お互いが努力しなければいけません。そうすれば、個々の力もいいし、チームワークもいいということで、そこに生まれるところの活動力は、社会に大きなプラスをもたらします。よき仕事もでき、よりよき会社の姿につながるのです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏の説いているポイントを整理します。①個々の従業員の力を高めることが大事。②個々の力を束ねる会社の力も大事。③チームワークも大事。④チームワークは、一塁手が二塁手を見守るようなもの。⑤この①+③=活動力+社会にプラス+よき仕事+よりよき会社の姿。
 これまでも繰り返し検討してきましたが、従業員の自主性を重んじる経営モデルと、そうでない経営モデルを対比させながら検討します。
 まず、①が特に重要なのは、従業員の自主性を重んじるモデルです。従業員に仕事を任せていくことで、経営者のキャパシティーを超えた大きさの仕事が組織としてできるようになるのです(7/10の#146)。他方、そうでないモデルは、従業員には経営者の指示を忠実にやり遂げることだけが要求されますので、従業員の能力向上も、(もちろんその方が良いに決まってはいるが)相対的に見て、重要性が低くなります。
 次に、②は、例えば人事制度上の施策として、従業員の意欲や活動の方向性を合わせるような目標設定と人事考課を行う、会社のポリシーや社風を整え、従業員の意欲や活動の方向性が揃うように誘導する、等、経営者が取る様々な経営施策の総体です。従業員の自主性を重んじると、どうしても従業員の個性が表れてきます。多様性に繋がることで、それ自体が悪いことではないのですが、他方、会社組織の一体性を維持することが重大な課題になるのです。この②に関し、松下幸之助氏は簡単に触れているだけですが、従業員にだけ対応を押し付けているわけでないことを、確認しておきましょう。
 次に、③です。経営者に、②会社を一体化させる力があったとしても、③がなければそれを弱めてしまう、という説明です。つまり、従業員に対し、①個々の従業員の自主性を求めるだけでなく、③チームワークも求めているのです。
 その具体的な内容が④です。
 どのような連携をイメージしているのか、少し分かりにくいですが、例えば二塁手がセンター寄りに守備を構えた場合には、一二塁間の守備にとって適切な距離を取る、というような場面を考えると良いかもしれません。
 これを会社の業務に置き換えてみましょう。例えば、役割分担やマニュアルが想定していないトラブルが発生するかもしれない、と自主性の高い従業員Aが気付いたとします。与えられたことしかしないのではなく、自分の業務に対し、想像力を働かして主体的に取り組んでいるからこその「気付き」です。そこでAは、別の部門のBに、Aの気付いたリスクを相談します。ここで、AとBは、どっちの責任で対応するのか、マニュアルを改訂しなければならないのではないか、等の仕事や責任の押し付け合いをするのではなく、手際よく、リスクに備えた態勢やプロセス、役割分担を話し合い、決定し、実際にそれぞれの役割に応じた準備に取り掛かりました。チームワークが機能したのです。
 すなわち、実際にどのような展開になるのかを想像すれば、役割分担やマニュアルなどで明確でないような事態についても、上手に連携して適切な態勢を整えることができるのです。
 このことから、個々の従業員の自主性が高まった場合、さらに従業員同士の柔軟な連携が備わってくれば、組織としての活動力や対応力がより高くなることが理解できます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、⑤が問題になります。まず、等号の左辺ですが、松下幸之助氏は「①+③」としていますが、「①+②+③」と理解すべきでしょう。
 問題は右辺です。キーワードだけを見れば、「活動力」「社会にプラス」「よき仕事」「よりよき会社の姿」ということですが、それぞれの関係を整理しておきましょう。
 これは、経営者のミッションや、会社と社会の関係に関する松下幸之助氏の一貫した考え方を前提にすれば、容易に理解されます。
 まず、経営者のミッションです。これは、単に「儲ける」だけでなく、「適切に」「儲ける」ことが重要です。これは、最近の数多くの品質偽装問題(建築、食品、素材など)で、社会の顰蹙を買ってしまった会社が経営危機に直面している状況などを見れば実感できることです。すなわち、会社は社会に受け入れてもらえなければ、永続的に利益を上げられないどころか、存在すら許されなくなるのです。このことから、経営者は「適切に」「儲ける」ことがミッションなのです。
 これは、実は昔から論じられてきたことで、日本では、「三方良し」、欧米では、「ノブリスオブリージュ」、最近では「コンプライアンス」「企業の社会的責任」「CSR」等の言葉が、これに該当します。社会に嫌われないように受け身で身を縮めるのではなく、より積極的に社会に対してアピールしていくことも含まれます。
 このように見れば、上記の4つのキーワードの関係が理解できます。
 つまり、「①+②+③」によって会社の「活動力」が上がれば、仕事の質が上がり、「よき仕事」ができるようになり、収益力も上がります。収益を上げることは、社会に評価されていることでもあり、社会を良くすることに貢献していることになりますから、当然「社会にプラス」となります。このように、収益を上げ、社会に貢献する会社が、「よりよき会社の姿」なのです。

3.おわりに
 ここでの松下幸之助氏の発言は、従業員への訓示となっていますが、ここから経営者の在り方を逆算してみましょう。
 すなわち、①従業員の自主性を重んじる経営モデルの場合には、②経営者の取組みや、③④従業員同士のチームワークを活用して、組織の一体性や柔軟性を確保することが必要、すなわち、従業員の自主性と、組織の一体性や柔軟性を両立させる能力が、経営者に求められる、ということがわかるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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