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経営の技法 #37

4-10 相互牽制
 内部統制(下の正三角形)上、不正やミスを防ぐための機能は、典型的には法務部門や内部監査部門が担うことになるが、これが正しいわけでも、これが全てであるわけでもない。本来は他の業務を行う部門が、副業的に牽制機能を担っても良い。

2つの会社組織論の図

<解説>
1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、内部統制(下の正三角形)の観点から見た場合、会社組織は、①ただ儲けるだけでも、②慎重すぎてもダメで、効率性と適切性の両立を目指さなければならない、と説明しています。
 第2に、牽制機能ばかり強調される「三権分立」も、実は、国の業務の分担という面があり、効率性も重要であること、むしろ牽制機能は各機関の「副業」であること、を指摘しています。
 第3に、「アクリフーズの農薬混入事件」「東海テレビの『ぴーかんテレビ』放送事故」「メルシャン水産飼料事業部の循環取引事件」「ベネッセの顧客情報漏洩事件」「大王製紙会長による特別背任事件」「オリンパスの不正会計事件」について、内部統制(下の正三角形)上、それぞれどのように相互牽制されるべきだったのかを検討しています。
 第4に、相互牽制の機能は、監査部門のように牽制専門部門を設けるだけでなく、例えば経費の支払をチェックする経理部のように、「副業」も活用すべきである、と説明しています。

2.ブレーキ一本で足りるのか
 ここでの問題意識は、自動車を例に取れば明らかです。
 すなわち、安全運転のためのツールは、ブレーキだけではありません。何かが接近したときになるアラームも、牽制機能です。
 さらに、例えばスピードメーターも、どこまで加速できるのか、という見方をすれば加速のためのツールですが、出すぎたスピードをどこまで抑えるのか、という見方をすれば牽制機能を果たします。客観的に状況を伝える役割を果たす「本業」を有するメーターが、「副業」として牽制機能も果たしているのです。
 不祥事が起こった場合、なぜ監査が機能しなかったのか、など「専業」の監査部門が非難される場面を多く見かけますが、不祥事に気付き、牽制を働かせるべき部門は他にも沢山あるはずです。

3.おわりに
 デュープロセスの観点からも、例えば財務部門が財務的な観点から検証し、事務方が事務処理の適切性の観点から検証するなど、それぞれの専門部門が検証に加わることで、判断の合理性がより高くなります。つまり、リスクを取ってチャレンジする際の合理性が高くなるのです。
 この意味でも、これはあの部門の仕事、と押し付けて逃げるのではなく、各部門に関わるリスクについては、それぞれ自身の業務として真剣にチェックする意識やプロセスを醸成しましょう。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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