松下幸之助と『経営の技法』#113
6/7 働きの成果を黒字にする
~全従業員の働きの成果として必ず利益を出す。そうでなければ、会社は存在する価値がない。~
皆さんが、朝から晩まで会社の仕事に従事してくださって、そうしてその働いた成果というものがゼロではいかんということである。その働いた成果には、必ず利が出なければならない。これをなしえない経営では絶対に意義がない。数億の金、数千台の機械、数百棟の建物を使用し、7,000の人が朝から晩まで一所懸命働いて、何ら利潤も出ないということは、国家をしてだんだん貧困ならしめ、会社をしていよいよ衰微せしめ、全従業員がだんだん貧困になることでしかない。かくのごとき能のない働きに終始してはならないのである。
我々が産業人であることを考えるならば、これだけの人の働きの成果を黒字にもっていって、国家の繁栄と、会社の繁栄と、従業員の生活向上になるような成果ある仕事を断じてやる、ということを、はっきりと我々は認識しなくてはならない。そうでなければ、あって甲斐ない存在である。あって甲斐ない存在ならば、松下電器は解散をしてよろしいものであると思うのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)
1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
まず、いつもと順番が逆ですが、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者のミッションは何でしょうか。これは、株主が経営者に託したことは何か、という問題です。すなわち、実際に株主が経営者に託したものは、多額の資本であり、経営の機会ですが、それを何のために託したのか、という問題です。
回答は、儲けることです。
お金を儲けたい、という人間の基本的な欲求をツールにしたのが、社会制度として見た場合の資本主義経済市場です。
さらにこれを、市場での取引主体を作り出す観点から見た場合は、株式会社制度になります。お金はあるが経営のセンスがない人たちが、経営のセンスのある人を集団で雇うことで、大きな資本と優秀な経営者(さらに多数の従業員)を集めることができ、経済市場でのゲームを有利に動かすことができるようになります。投資する側の欲望と、経営する側の欲望を上手に組み合わせた仕組みとして見れば、株式会社制度が人類の偉大な発明品である、という評価も、容易に理解できます。
これに加えて、単純に「儲ける」のではなく、それが「適切」であることもミッションです。
というのは、どんな手段を用いてでもとにかく儲けろ、ということであれば、それはマフィアや暴力団だからです。会社が組織として(人の命よりも)長く活動し続けるためには、会社が社会に受け入れられることが必要であり、いわゆる企業が社会市民となることが必要です。そのためには、違法ギリギリの仕事をして社会からはじき出されるのではなく、逆に、社会が認めてくれるような活動が必要であり、それこそがコンプライアンスの本来の意味なのです(現在は、CSRや社会貢献などの言葉の方が多く使われますが)。
松下幸之助氏は、会社の利益に加え、従業員の生活向上や国家の繁栄も重大な問題として位置付けていますが、これこそ、後者の「適切」という言葉と共通する問題意識なのです。会社が社会に受け入れられる要因には、もちろん、ボランティア活動や福祉活動など、社会やコミュニティーへの直接的な貢献も重要ですが、経済を活発化させて従業員、国民、国家を反映させることも重要です。尊敬される会社は、「武士は食わねど高楊枝」ではなく、実際に経済を活発にしてくれる頼もしくて力強い会社なのです。
2.内部統制(下の正三角形)の問題
次に、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
このようにして見ると、会社は経営者がそのミッション、すなわち「適切に」「儲ける」ミッションに応えるためのツールです。儲けられるように会社を運営することこそが、経営者の役割であり、そのためには、組織体制や人員の配置、予算の配分などだけでなく、チームを盛り上げることのできる優秀な中間管理職の育成、企業文化や雰囲気作り、なども重要になります。
松下幸之助氏は、具体的な方策は何も論じていませんが、儲けることができない会社には存在意義がないと明言しており、儲けるためのツールであることを理解しているのです。
3.おわりに
三方良し、という言葉を思い出した方や、会社は従業員のためにある、という言葉を思い出した方も多いことと思いますが、そのようなことよりも先に、まずは儲けなければならない、というところに、市場の参加者として経済と経営に精通した松下幸之助氏の最大の関心があるように思います。
どう思いますか?
※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。