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マイナンバーミラー【掌編小説】

僕らに与えられた鏡の破片。

それは、長い時間をかけて川底で円磨された小石のように、歴史とアイデンティティを感じさせる。

円形や角がとれた多角形など同じものは一つとしてなく、ジグソーパズルのピースのように、それぞれ役割と繋がりをもつ。

鏡の破片(通称マイミラー)は、出生の届出と引き換えに交付されるのだが、実際には、ICチップ内蔵のマイナンバーミラーカードに情報が書き込まれ、現物は日本銀行の貸金庫に収納する。引き出しは自由だが、紛失や破損をしても再発行はできない。

マイナンバーミラーカードとは、親世代が持つマイナンバーカードにマイミラーの形状データを加えたもので、それにより自分の鏡の形と適合する相手、つまり、相性の良いパートナーとマッチングさせる機能を備えた。
平たくいうと、国が少子化対策のために、鏡の破片を利用して「婚活」を本格的に支援し始めたということだ。

パートナー照会ができるようになるのは成人の18歳からで、選出されたパートナーリストには好相性順に数人の名が表示されるしくみ。

僕のリストの一番上にあったのは、君の名前だった。
一部が欠けている四角形の僕の鏡。それに対して君の鏡は、その欠けている部分を埋めるようにフィットした。
18歳で出会い、大学に通いながら20歳で結婚。昨日、3人目の子どもが産まれた。
少子化対策のため、多方面で国の支援は厚く、僕らのケースは標準的といえるだろう。



病院のベッドの脇に座る僕に向かって、「この子はどんな形の鏡かな。ミラーはやっぱりミラクルだよね。この子の誕生も私たちの出会いも奇跡。幸せだよぉ」と君は破顔する。

「そうだね。なにか飲み物でも買ってこようか」

「スイーツもお願い!」

「そんなに食べてもいいの?」

「平気よぉ。気をつけてね」

僕は7階の病室を後にする。

エレベーターに乗り、コンビニのある1階のボタンを押す。
僕は背後の鏡を見つめた。

なぜ鏡だったのか。
国の説明では、古来より神々に祀られた鏡が破片の元になっているという話だった。
みんな、相性の良いパートナーが見つかるなら、とマイナンバーミラー制度をすんなり受け入れた。

鏡に映る僕。
鏡の前に立つ僕。

どちらが本物だろう。

客観的に自分を見つめる視点。
鏡はそれを担う。
だから生きている間、心身ともに鏡の存在は欠かせない。
でも、死後はその視点を必要としない。
つまり、死ぬということは、主観の僕と客観の僕が一つになるということだろうか。

それが本物?

人は死んだとき、鏡の破片を埋葬する。
もしかして、誕生とは鏡の中から出てくることであり、死は鏡の中に戻ることを意味するのか。



そうだ、スイーツはなにがいいんだろう?
ポケットからスマホを取り出す。

カシャン。
床になにかが落ちた。



僕の乗ったエレベーターは、いつまでたっても1階に着かなかった。
君の笑顔が脳裏を支配する。

鏡に映る僕は、コンビニの袋を手に幸せそうだった。





(1188文字)

©️2022 ume15

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