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<イチ♥プロ>この子の背景には何がある?思いをはせて(前編)

イチゴが活動を通じて出会った方の中で「この人こそ…児童福祉のプロフェッショナルや!」とイチ推ししている方にインタビューしていく新企画「イチゴのイチ押し!プロフェッショナル」(略して「イチ♥プロ」

ソーシャルワーカーとして、職業人として、どのような思いで子どもたちと向き合っているのかを伺います。児童福祉を仕事にしている方も、そうでない方も、素敵な気づきが得られますように♡

「死ね!」という言葉の裏に何があるのか?

イチゴイニシアチブ(以下、イチゴ); 

第1回目は、都内の児童福祉施設にお勤めのアキさん(仮名。以下、アキ)にお話を伺います。ここの施設では「背景に思いをはせる」という言葉をよく使っておられます。子どもの行動や言葉をそのまま受け取るのではなく、なぜそうしたか・本当は何を望んでいるかを考えるという趣旨ですね。施設の社訓のような言葉だと感じますが、それをどのように実践しておられますか?

アキ; それは前の施設長が残した言葉で、職員が拠り所とする共通理念です。

例えば、以前僕が担当していた子で、パニック状態になると、母親を叩いたり「死ね!お前の顔なんか二度と見たくない」と言った言葉を吐き捨てる子がいました。自分の要求が通らない事でイライラし始め、我慢できる時もあるのですが、負担が重なると爆発してしまいます。

一度、彼が暴れたときに話をしようとすると、「死ね!」と叫びながら部屋を飛び出そうとし、僕はとっさにその子の前に周って、通せんぼする格好になりました。とにかく一旦落ち着かせようと、暴れるその子をぎゅっと抱きしめ、しばらく頭を撫でていたんです。

向こうも最初は僕を叩いたり蹴ったりと抵抗していたのですが、だんだんダランと脱力して、気づいたら腕の中でシクシク泣いていました。僕は背中をさすりながら「大丈夫、大丈夫」と声をかけ続けました。


イチゴ;暴れていた子が腕の中で泣き出した…アキさんに抱きとめられたことで心の鎧が外れ、奥底にしまっていた悲しみが溢れ出たんですね。

アキ;その子は父親からひどい虐待を受けてきました。小学生ながら「警察呼んで逮捕してみろよ!」と挑発的な言葉を使い、まるで父親が乗り移っているように見える。ああこれが父親がしてきたことのツケなのか、と。
人を罵るときの彼は、本当に苦しそうな表情で。「本当は愛されたかった。母親にも守ってほしかった。」という思いが爆発して、上手く表現できずに誰彼構わず「死ね!」と言ってしまう。


彼の傷や本当の望みを理解すること、それが「背景に思いをはせる」ことです。すると同情を超えて「今まで本当に大変だったね」と、ねぎらいの気持ちが沸くのです。気づいたら自然と、暴れる彼を抱きしめていました。

虐待を受けた子の中には、暴言・暴力・虚言など、いわゆる問題行動が見られる場合があります。それがコミュニケーションの手段なんですね。僕も施設で働くまでは、ここまで暴れる子たちに出会ったことはなかった。
「今まで出会ったことがないような子たち」と接する中で、僕が彼らにとって「今まで出会ったことがない大人」にならないと、と思ったんです。彼らを産んだ親のように、殴ったり、支配したり、厄介者扱いしない大人に。そういう大人もいるんだ、と子どもが分かることがまず第一歩目。そこから、こんがらがったものを一緒にほぐしていく仕事ですね。


「問題児」が苦手だった新人時代 

そうした子たちに対して、最初から前向きな姿勢を持てていたわけではありません。新人の頃は面食らってばかりで「明日もあの子と会うのか…」と憂鬱な気持ちで通勤していました。そんな自分を変えてくれたのは、当時の施設長とチームの皆さんです。

この子苦手だなあと思って接していると、施設長から「逃げてるのはわかるよ、俺も昔経験してるから」とズバリ指摘されて。


上手くいかなくて落ち込んでいると、施設長は勤務時間中であっても「今から飲みに行こう」と僕を居酒屋へ連れ出し、テーブルで差し向って「本当に無理なときは無理でいいんだ。でも、そのことを誰かに伝えたか?」って。僕は全て一人で抱え込んでしまっていたんですね。でも「それだと潰れてしまう」と。


そこからは、本当に辛いときは他の職員にSOSを出して介入してもらうようにしました。その際も「他の人に前に出てもらって終わるだけじゃダメだよ。次からは自分でこうしてみたらいいんじゃない」とアドバイスを頂き、後日その通りやってみたら「成長したねえ」と褒めてもらえて。


すると、必死だった自分も「ああ、これでよかったのか」と思える。それを繰り返すうち、問題児と思っていた子への苦手意識は薄らいでいきました。暴言・暴力・虚言それ自体を問題視するのではなく、その裏にある相手の心を探ることが大事だと。また、僕個人を嫌っている訳ではないということが分かると、不用意に傷つかなくなりました。

イチゴ;離職率の高い業界で、バーンアウトして辞めてしまう職員もいますが、アキさんは当時の上司の方のサポートがあったから、戸惑いながらも、子どもと向き合う土台ができたと。

アキ;そうですね。誰も助けてくれなかったり、ボロボロになっているのにダメ出しだけをされていたら、早々に退職していたと思います。職員が子どもに打ちのめされて事務所に戻ってきたら、たとえ対応がまずくても、まずは健闘をたたえて迎え入れてあげないと。改善策を指摘するのはその次で。特にこの業界ではそうしたチーム連携がないとやっていけないですね。

僕の場合、施設長やチームのメンバーのおかげで、大変という気持ちよりも「この子の背景には何があるんだろう」という好奇心のほうが勝るようになりました。暴れまわる子どもであっても、今では1日一緒に過ごせば、もう可愛くって仕方なくなります。

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友達のように接しつつ、さりげなくSOSをキャッチ

イチゴ;子どもと関係を築くときは、何を意識しておられますか?

アキ;クラスメイトのような共通の話題を持って、距離を縮めます。
何か一つでもその子の興味関心が分かれば、それを研究するんです。なんにも興味がない子どもというのは、まずいませんから。

例えば以前、大人の男性が苦手な女児がいて、僕のことも避けていました。何かトラウマがあるかもしれないので、無理に近づくことは絶対にしませんでしたが、その子がアニメの「プリキュア」が好きという情報を得たんです。

だから、僕はプリキュアの登場人物を調べて、総勢30人程の顔と名前を全て覚えました(笑) その子がグッズを持っていたら「あっ、キュアレモネードじゃん!」とキャラ名を当ててみせたり、わざと聞こえるように「マックスハート(劇場版)面白かったなあ~」と呟いたり。すると翌日、自分からグッズを見せに来てくれ、そこから関係性が始まりました。

傍から見ると僕がアニメオタクのようですが、実はアニメもゲームも漫画も、全く興味はありません。唯々子どもと仲良くなることを目的に、プライベートの時間も使って研究にいそしむのです。そうしたことに時間やお金を使うのは全く苦にならない。 

この前も、ポケモン好きな小学生のために夜中まで何時間も格闘し、やっとゲットしたレアポケモンを子どもにあげると「すげえ!」と一気に尊敬されて(笑) 彼がそれを学校に持っていき、クラスでヒーローになれるといいな、という狙いもあるのですが。

イチゴ;小学生時代はクラス全員が一様にハマるような圧倒的な流行がありましたよね。大人になるにつれ、興味もバラバラになっていきますが。子どもの世界に入るには、そうした共通言語があると有利ですね。

アキ ; まずは日常会話ができる関係性を作らない限り、苦しんでいるときにSOSを出してはくれないですから。
ちなみにゲームは勝ち負けを学べる効果もあると思います。僕は大人なので、新しく出たゲームでも少しプレイすれば大体コツはつかめる。大人の特権を使ってアイテムに課金もできる。だから上達は早いけれど、子どもと対戦するときは絶対に手加減はしないので、普通にやれば僕が勝ちます。「大人気ないぞ!」と抗議されますが(笑) 

僕は別に勝ってマウントを取りたいわけではなく「なぜ負けたか、どうやったら勝てるか」を考えてほしいのです。特に負けの受容が苦手な子は、負けそうになると勝負を放棄したり、ズルをすることも。それは絶対に見逃さず、イライラしても物や人に当たることもさせない。その代わり「なんで負けたか、次はどんな戦略にしたらいいかを考えてみようよ」と投げかけます。敗因分析と、感情のコントロールの練習をさせるんです。

そうすると、本気出しても、たまーに僕が負けることがある。でもそれが嬉しくて。「やったー!!」と飛び回って喜ぶ子どもに「僕もすごく嬉しいよ」と伝えます。子どもには自分の実力を伸ばすだけでなく、自分より下の人の力を引き上げる立場にもなってほしい。

イチゴ;勝敗だけでなく、そこに至るまでの道のりを含めて「いい勝負かどうか」を重視しているのですね。「ゲームばかりしないで勉強しなさい」と叱る大人もいますが、教育的な面で必ずしも悪者ではないのかも。

アキ;むしろゲームは大人にとっても有効だと思いますよ。例えば、見た目を若く保つことを頑張る大人は多いですが、遊び心を無くさず、幼くあり続ける努力をしている人は少ないですよね。好奇心も探求心も歳を重ねるごとに鈍っていってしまうから、意識的に磨き続けることで、おじさんになってもマリオカートに本気で熱くなれる。一生懸命遊んで楽しさを共有する事で、子どもの心の厚い層の一枚が剥がれます。

カードゲームも子どもとのコミュニケーションにいいですよ。僕は東急ハンズに売っているカードゲームを全種類買い占めるほど、コレクターになってしまいました。子どもと遊びたくて職場に持ってきますが、今では自宅の戸棚がいっぱいになるほどコレクションが増殖しています(笑)もう、商売道具ですね。

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イチゴ;子どもに合わせるのではなく、ご自身も楽しむことが、無理なく続けられる秘訣でしょうか。

アキ ; そのとおりです。ただし、楽しく遊びつつも、子どもがふと見せた表情や、放った言葉で気になるものは見逃さずに必要な対応を考えていく。これが専門性です。大事なのは、子どもに変な気を遣わせないよう、さりげなく問題を拾うこと。これも入職時の施設長から学んだことの一つです。


実は今、遊びを通じて、施設だけでなく、地域で暮らす子どもの虐待予防や課題を解決する道を考えています。例えば、近所の公園にボールなど遊び道具を一式持って行って、子どもたちと一緒に思いっきり遊ぶとか。

「いつも公園にいるおじさん」と認知されて、楽しく遊びつつも、ちょっとしたことを相談できる関係を作りたい。お互い素性はよく知らないけど、いない日があると「あの人、今日はいないね」と残念がられるのが理想です。


ただ待っているだけでなく、自分から子どもが集まる場に出向き、率先して関わっていく仕組み作りが必要かなと。学童保育のような出来上がった環境ではなく、公園などの自然体で構えない素性をみせられる環境に専門性を入れたいなと。

施設の子を連れて近所の公園に行くと、そこにいる子どもの同級生たちと遊ぶことがありますが、その中にも言動が気になる子がいて、公園を拠点にする必要性に気づきました。子どもの世界に入っていける大人が、彼らを変えていけるのかなと思います。


施設の子には、虐待が既に起こった後の「事後対応」になりますが、地域で暮らす子には、虐待の「予防や発見」ができる。「遊び」という共通言語を活用していける場をつくりたいですね。

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※後編はこちら


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