『ききみみずきん』
まだ、読み聞かせボランティアを始めたばかりの頃、小学校高学年の読み聞かせで、なんの絵本を読んだらいいのか、迷っていた。その時、お仲間のひとりが、「昔話がおすすめ、意外にみんな知らないから」とアドバイスをくれた。
それからは、積極的に『ききみみずきん』を読むことにしている。みんなにも、このおはなしを知ってもらいたくて。広松由希子さん作、降矢ななさん絵、岩崎書店のものだ。
今年度から、朝の読み聞かせ時間が5分早まった。それに慣れておらず、ギリギリの到着になってしまい、少し慌てる。たかが5分、されど5分。
なんとか間に合い、3階まで一気に階段を登り、廊下で上着を脱いで、息を整えた。ついでに、お水をひと口。ふぅ。そうしたら、すぐに先生に呼ばれた。少し時間には早いが、読み聞かせのスタートだ。
6年生の教室に入ると、しんとしていた。挨拶をして、本の紹介をしたところで、「手洗いの歌」が流れ始めた。あれ?朝の手洗いタイムはなくなったみたいなのに、歌だけ残っているのかな…頭の中に?が並ぶ。
咄嗟に、本を読むのをやめた。歌が流れている間は、わたしの声が聞こえない子がいるかもしれない。わたしが、読むのをやめたので、子どもたちは不思議そうにしている。「あっ」と思って、その訳を言った。これは、まぁ、しっかりと聞こえなくてもいいからね。
「歌が流れている時には、読み聞かせが聞こえない子がいるかもしれないので、ストップします。というのも、わたしは耳が聞こえにくいから、補聴器をつけています。(髪をかき分けて両サイドの補聴器を交互に見せた)もしかしたら、みなさんのご家族にも、補聴器をつけてみえる方がいるかもね。補聴器をつけているわたしは、声が重なると、とっても聞こえにくいのです。でも、補聴器をつけ慣れた今は、聞こえであまり困ることはないです。こうやって、読み聞かせもできるしね。眼鏡と同じようなものです。あっ、歌がやんだ。もう、これで歌はおしまい?」
子どもたち、深くうなずく。
「それではまた最初から始めます」こう言って、読み聞かせを続けた。一番後ろの子にも、絵本が見えるように手を高く挙げていたから、途中で腕がだるくなってきて、慌てた。両手で支えなおして、なんとか切り抜ける。
ゆっくり、丁寧に、なりきって、読めたと思う。みんな、よく集中して、見て、聞いてくれた。声はなくとも、雰囲気で、それが伝わってくる。無事に、時間内に読み聞かせられた。挨拶をして、おしまい。お疲れさまでした。
ぼんやりしながら、川沿いの道を帰る。
『ききみみずきん』は、こぎつねを助けた若者が、きつねから、鳥や木々の話がわかるずきんをもらい、それで人を助けるおはなしだ。わたし、このおはなし、大好き。わたしも、ずきんが欲しい。でも、もらう当てがないから、代わりに想像するんだ。鳥が何を言ってるか。木々が何をささやいているか。
そんな想像をするだけで、なんだか楽しくなってくる。本当にそんな「声」が聞こえてきそうで。今も鳥がなき、木々が風に吹かれている。ふふふ。
「今日もがんばってまいりましょう♪」
気づいたら、そう、つぶやいていた。