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『この素晴らしい世界に祝福を!』感想 2020/12

 2020年の終わりに、はじめて『この素晴らしい世界に祝福を!』を読んだ。アニメは見ていましたけれど、原作に手をつけたのは、去年の12月がはじめて。

 理由は、尊敬している作家の方に「軽い文体が書きたい」を相談したところ、「このすばのアニメを見たなら」とすすめられたから。

 とてもメジャーな作品であり感想がおおく残されていること、またわたしがすこし変わった読み方をしたことから、ここでは以下の4点を感想としてまとめることにしました。

1.文体の軽さ
2.テンポの良さ
3.ヘイトコントロール
4.逆張りとギャグ

 なぜ文体が軽いと思ったかといえば、会話におりまぜられたユーモアと、修飾のすくない地の文にあります。

 小説は、文字数を重ねて読者の脳内にイメージを作ることから、どうして文字数が必要になる。
 ひとつのイメージを描写するために、マンガではコマのはしっこでやる小ネタであっても、小説ではたった一行ほどの40文字以内におさめるのもむずかしい。
 かかる労力はともかくとして。
 

 ここで、『このすば』本編の冒険者ギルドの描写を引用します。

 ゲームに必ず出てくる、冒険者に仕事を斡旋したり、もしくは支援したりする組織。
 つまり異世界のハロワ的な存在だ。
 そこはかなり大きな建物で、中からは食べ物の匂いが漂っていた。
 中にはきっと、荒くれがいるだろう。
 新参者を見て、いきなり絡んでくるかもしれない。

 引用おわり。

 1.冒険者ギルドの概要
 2.飲食の場を兼ねている
 3.どんな人たちがいるかの予想

 この1ページにも満たない文章に、この3点がまとまっています。

「異世界のハロワ的な存在」のワンセンテンスは、分かりやすいたとえであり、また身近な例だからしゃちほこばった表現ではなく、文章も重々しくなっていません。
 すくない文字数と、濃い情報密度。

2.テンポの良さ

 プロローグは全体の6%しかなく、ここでは書き出しから異世界転生までが書かれています。

1.死因
2.女神も道連れ
3.あっけなく見捨てられる女神

 コメディとしての山場はこの3つです。
 おおざっぱに数えて、2%に1回のペース。

 Kindleが計測しているユーザーの平均的な読書スピードでは、プロローグを読み終えるまでにおおよそ2分かかっています。
 とてもハイペースに笑いがしこまれている。

 PTメンバーがそろい、主人公が個性的なスキルを入手するまでに、一巻の半分も満たない。

『ロード・オブ・ザ・リング』なら、まだホビットの庄のうんちくが語られているし、並みのファンタジー小説なら一巻をついやしてようやくここまでくる、というくらい。

 アクアとめぐみんがPTへ加入するまでが一巻の3分の1。
 そこからキャベツやスティールさわぎをはさみ、ダクネスが仲間になるまで、全体の40%ほど。

 トントン拍子ですすみ、かといって情報量が薄いわけでもなく、キャラを立てながら物語がすすんでいきます。

 コメディがうまい……。

3.ヘイトコントロール

 これに失敗すると、SNSで燃やされて、善意の火付け盗賊改めに通報されて凍結されてしまいます。

 こわいねツイッター。
 淫紋でバズるし。

 転生シーンを例にとります。

 カズマへのアクアの罵倒が冴えるシーンですが、カズマの機転により異世界へアクアが道ずれにされることで、理不尽な死と神様へのヘイトを軽くしています。

 ここで、『幼女戦記』の存在Xを引き合いにだしつつ簡単に比較していきます。
 主人公を転生させること、それから主人公に干渉してトラブルを発生させることが理由です。
(『幼女戦記』はジャンルも違い、また「そういう物語」であるということは承知の上ですが、分かりやすい例として使わせていただきます)

 アクアも存在Xも、本編内でその言動や行動から読者と主人公からのヘイトをかせぐ。
 しかしこのふたつのキャラで決定的に異なる点が「しっぺ返しがあるか」です。

 コメディと仮想戦記ではジャンルからお約束までなにもかもが違うことを念頭におきながらつづけます。

 アクアはどれだけヘイトを高めても、ギャグの落ちで問題をおこしたツケを払わされますが、存在Xの場合はそれがありません。

 この違いはとても重要なことで、『幼女戦記』のようにそういうものという納得があればよいのですが、そこを怠れば、「作者は自明のものとしてキャラを持ち上げているが、そのせいで読者は面白さとは別のところでいやな思いをする」というおおきな間違いを犯してしまいます。

 だいじ。

4.逆張りとギャグの絡め方。

 資料として、『このすば』以前と以後の「小説家になろう」のランキングをいただきました。

 本人の発言とあわせて引用させていただきます。

 2010年に異世界ブームが開始
 2011年に「タイトルにヒロインの内容を入れる」「奴隷ヒロイン」「努力しない主人公」などがブームに
 更に「ゲームだったと思ったが異世界だった」などが入ってきて
 2012年頃に『なろうテンプレ』の概念が確率していった
 これが2013年にこのすばなどによって、『なろうテンプレは皆知ってるからそれを前提に作品書いてもいいよね?』が生まれた
 このすばは斬新なものを生み出したとかそういうわけではないんですが、まあいつの時代もそうですよね
 斬新なもの生み出した人よりもそれをまとめて偉大なものを生み出した人の方が伝説になる
 ぱぱっとまとめると「異世界転生ってこういうものだろ? えっ何これ!? 異世界転生ってそういうもんじゃなくない!?」がこのすばが当時ギャグ的にやったもの

2008年
1位 異界の魔術士 著:ヘロー天気
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転移 冒険 異世界召喚 異世界迷い込み 最強 安心 ハッピーエンド ファンタジー 少女 魔法 貴族 魔法使い/魔女 モンスター 異世界 プチ・ガールズラブ

2位 夜明けの月 著:BIRUSU
【タグ】夜明けの月 シリアス コメディ ファンタジー 冒険 OL/サラリーマン 戦士 ドラゴン モンスター 異世界

3位 神速果断のシャープネス 著:一撃必殺!
【タグ】異世界 ファンタジー 魔法 剣と魔法 ほのぼの 恋愛 毒舌商人 口撃開始 考撃開始 人生谷あり、崖あり 一日一難 わが師が不穏 マジ☆狩る、魔法少女 幼馴染

4位 【削除済み】

5位 姫と三騎士と平民A 著:弓槻
【タグ】ラブコメ 三騎士 平民A 姫 コメディ ハッピーエンド 恋愛 少女 少年 高校生 学校/学園 美形 現代

6位 最強の魔術師! 著:実行者
【タグ】最強 あまあま 武術 学校/学園 ライト らぶらぶ 恋愛 ファンタジー 魔法 高校生 美形 魔法使い/魔女

7位 ストーカーと僕 著:武藤緒実
【タグ】R15 ボーイズラブ ほのぼの コメディ ハッピーエンド 美形 現代

8位 カカの天下 著:ルシカ
【タグ】ホームドラマ ほのぼの 楽しい 妹 笑 癒 コメディ ライト 少女 友情 少年 小学生 現代

9位 迷い子は夜明けの歌を歌う

10位 貧民と非国民と空の橋 著:TOC
【タグ】残酷な描写あり 貧民 非国民 シリアス 剣の国 孤島 魔法無し 魔物無し ファンタジー 鍋


2013年
総作品 19万作
登録者 33万人

年間ランキング
1位 無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 著:理不尽な孫の手
【タグ】 R15 残酷な描写あり 異世界転生

2位 盾の勇者の成り上がり 著:アネコユサギ
【タグ】残酷な描写あり 異世界転移 裏切り 不信の主人公 ダーク系? 成り上がり 盾の勇者 奴隷 男主人公

3位 こちら討伐クエスト斡旋窓口 著:岬キタル@鬼他
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転生 冒険 ファンタジー しない ギルド 異世界 魔法 転生 チート 誤解です 平凡 勘違い 生放送朗読OK

4位 詰みかけ転生領主の改革 著:氷純
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転生 異世界 転生 貴族 現代知識 内政 発明 趣味全開小説

5位 異世界食堂 著:犬塚惇平
【タグ】残酷な描写あり 料理

6位 八男って、それはないでしょう! 著:Y.A
【タグ】残酷な描写あり 異世界転生 転生・憑依 異世界 魔法 ハーレム? 貴族

7位 ライオットグラスパー ~異世界でスキル盗ってます~ 著:飛鳥けい
【タグ】R15 残酷な描写あり 異世界転生 ファンタジー 剣と魔法 盗賊 異世界 適度なご都合主義 厨二主人公 PC読み推奨

8位 勇者様のお師匠様 著:三丘 洋
【タグ】R15 残酷な描写あり 身分差 ファンタジー 恋愛 魔法 幼馴染


 2008年のランキングではまだ異世界転生(異世界転移)以外の作品も目立っていますが、2013年にはすべてファンタジーとなっています。
『このすば』はすでに異世界転生(異世界転移)のお約束が確立されてから、その逆張りをうまいギャグでおこなうことでブレイクしました。

 ギャグと逆張りの絡め方については、また転生シーンと、一巻中盤の宴会芸を引用します。

 チートの代わりにもらい受けた女神がほとんど役に立ちません。女神らしく高度な治癒魔法がつかえるとか、そういった「女神らしい」特技はまったくありません。

 労働の喜びを噛みしめ、仕事終わりの風呂と夕食が楽しみの女神さま。
 ファンタジー(幻想)という言葉にけんかを売っています。
 

「コックカワサキをえっちな目で見れなくなった」というコメントを88万人に読まれた方もいますが、わたしもアクアさまをえっちな目で見れなくなりました。
 最初の挿絵まではえっちな目でアクアさまを見ていたというのに。

(注 コックカワサキはえっちな目で見るものじゃありません)

 以上、課題感想文でした。

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