20年ぶりにたばこ屋のおばちゃんと話して感極まった話
一時的にではあるが、
育った地元に帰ってきている。
あえて一時的にではあるが、と
強調しているのには根も生えないつまらない理由がある。
理想の街で1年間生活をするも、経済難で地元に帰ってきてしまった自分のプレパラートのようなプライドがそう言わせているのだ。
すぐにこんな亀クサい街を出て、
また憧れの街で暮らす事を目標にしている。
まだ希望はある。
幸いにも完全テレワークで成り立つ職種の為、朝皆が出勤するタイミングで外へ出る必要は無く、
それなりに働き、溜まったストレスを発散するべく毎週末には地元に残っている友人に「この街は垢抜けた人いないな!反吐が出るね」と、去年とは400円程単価を下回った酒を飲む。
側から見れば甘えきったダサすぎる道楽息子極まりない事は分かっていて、自身をなるべく俯瞰しないよう、世間の声が聞こえないよう、フードを被り木曜日の夕食を済ませようと見慣れた街へ出る。
生まれた頃からしばらくの間昔住んでいた、某独立行政法人都市再生機構の手が加わった集合住宅を一瞥する。
変わっていないな、と思う景色がこの街には多い。
大きく変わったつもりがどこか変われていなかった自分にはよく似合っているかもしれない。などとは口が裂けても言いたくはない。
自転車で走っていると
ふと小学生の頃、
足繁く通ったたばこ屋が目に飛び込む。
そこはたばこだけ売っている訳ではなく、たくさんの駄菓子を売っており、
小学校が終われば皆が駆け込み友達との遊びをより高尚なものにするためのアイテムがそこには数多ある。
50円さえ持っていれば日没前のディナーとカクテルとスイーツを手に入れる事が出来るわけで、魅力の塊だった。
食べすぎると晩御飯が食べられなくなりママに怒られるところまでがセットだ。
そんな僕らに欠かせなかったたばこ屋が20年前と変わらずにその場所にあり、よく子供達の相手をしてくれていたおばちゃんも、20年分の歳月を重ね、カウンターに座っている。
逡巡した後、
話がしたい、そう思った。
ガラスの引き戸をガラリと開け、おばちゃんは少しだけ不思議そうな表情を浮かべつつ
「はい、いらっしゃい」
20年前と変わらない抑揚のないその挨拶には
僕の心を郷里的な感情に支配するのに十分だった
しばらく店内をぐるり眺めた。
小学生の頃の視点とは当然異なる為、店の小ささ、たとえ用のない力感の無さに違和感を覚えた。当時はどこまでもこの空間が広がり華やいでいるように思えたものだった。
いつまでもボケっと突っ立っている僕を怪訝そうに見るおばちゃんの視線を感じ、目線を30cm程下に落とし駄菓子を仰ぎ見た。
駄菓子のラインナップは
20年前と比べると激減していた。
大好きだった※1ペペロンチーノや※2餅チョコもそこには無く
とりあえず1つ10円のマルカワのフーセンガムを2つ手に取りおばちゃんに会計を求める。
ひえひえっこは何故冷たく感じるのだろう。20年経った今でもその謎は分からない。
「20円」
「ここはお店はじめて何年くらいになりますか?」
「60年って言われてるね、あたしより前の人もやってるから、戦前とも言われてるね」
「確かに、このお店、おばちゃんよりさらにおばあちゃん奥に居るときありましたよね」
「ああ、いたね。よく覚えてるんだね」
「はい、小学生の頃毎日のように来てたので」
「あなたタバコは吸わないの?」
「すいません、吸いません」
「(ひと笑いもせずに)ああ、そう。最近はタバコ吸う人も少なくなってきてね。」
「子供達は放課後に駄菓子を買いに来たりする?」
「しないしない、もうしないよ。あなた今ガム2つ、20円払ったでしょ?他行ったらどうよ、消費税取られるでしょ ウチはね消費税取らないでやってるの」
「そうなんですね、良心的だ。ありがとうございます」
「悪いんだけどさ、もう今日お店閉めるからさ(おばちゃんも立ち上がり店の外へ出るよう促される)」
「あ、はい。すみません。ありがとうございました。」
店の外で
「子供も減ったね、少なくなった」
「いつまで続けられるかわかんないからさ、このお店もあたしで終わりだよ、でも楽しんでるよ」
「...おばちゃん、身体に気をつけてね」
「はいよ、ありがとう」
盛者必衰。
どんなシチュエーションにおいても
自分の置かれた環境を楽しめる人になりたい。
そう感じさせた我が街でのひと時だった。
※1ペペロンチーノ
ラーメンでOKパスタでOKこんなの初めて!!
1日3つは当たり前。(1個60円)
※2餅チョコ
言わずと知れたチョコ界の覇王1個(20円)
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