プリミティヴに魅了される私たち
東京都世田谷美術館で行われている「セタビの森の動物たち」展へ行ってきました。
〝わたしたちは生きている〟
展覧会パンフレットのこの文句と、〝100種類以上の動物が登場〟という情報から想像したのは、展示室に動物作品だけを一同に集めた光景…。
そんないたって軽い心持ちで出かけたのですが、いい意味でこの安易な予想は見事に外れた、と言える企画展でした。
〝動物と人間が自然の中で共存してきた世界〟や〝それを描いてきたアーティストの思い〟をほんわかと想像することへ導いてくれる、
そんな暖かい気持ちにさせてくれる内容。
自然の中の動物、人々の生活、森の神秘など5章のテーマに沿った展示作品は、日本画、油絵、彫刻、版画、立体造形物と、見るものを飽きさせない構成となっています。
プリミティヴ・アート
「第2章 人とともに」ではプリミティヴ・アートで知られる、アメリカ人の農婦であったグランマ・モーゼス(1860 ~ 1961年)の作品が展示されています。
Primitiveとは直訳すれば原始的な、素朴な…などといった意味ですが、プリミティヴ・アート(しばしばナイーブ・アートとも言われます)は、〝正式な美術教育や訓練を受けていない人による素朴なアート〟として使われる用語です。
アメリカの農場で暮らしてきた彼女が、身近にある見たままの風景を題材にした作品は、懐かしい農村風景や共に生きる人々の暮らしが描かれています。
昨年、世田谷美術館で行われたの展覧会で、彼女のほのぼのと温かい多くの作品に包まれたことを思いだしました。
プリミティヴな表現
グランマ・モーゼスをはじめプリミティヴ・アートの画家たちは、身の回りの風景や生活を感じるそのままに描いたのであって、あえて〝素朴〟を意識して描いたわけではありませんでした。
一方で、Primitiveな魅力は19世紀前後のヨーロッパの多く芸術家たちを惹きつけました。
アフリカやオセアニアの原始的な彫刻や部族の美術、先史時代の美術など、素朴で生命力あふれる造形を取り入れた作品が多く生まれました。
その中でもフランスの画家ポール・ゴーギャン(1848 ~ 1903年)は素朴で単純な生活を求めてタヒチへ渡り、独自に解釈をした神話の中でプリミティヴの魅力を存分に描いています。
また、ゴーギャンと交流のあったパブロ・ピカソ(1881~1973 年)は、アフリカのお面や北アメリカのトーテンポールなどを収集していたとされ、その影響を受けた作品が多く見られます。
それは直接的な表現にとどまらず、キュビスムの手法で描かれた作品の中にも生かされています。
キュビスムとは、様々な視点から見た面を1枚の絵に収める手法です。例えば下の作品では、右の女性の顔が3つに分割されていますが、それによって女性の多面的な側面を表現しています。
一見、〝素朴な、原始的な〟とは関係なさそうですが、幾何学的な形を組み合わせて構成するキュビスムの表現は、原始的で単純な表現から生まれたものでした。
キュビスムでは、西洋絵画の技法である遠近法や明暗法などは使わずに、見たまま、感じたままのプリミティヴな方法が取り入れられているのです。
自然の中で生き続ける
話がだいぶ横道にそれてしまいましたが、展覧会へと話をもどしましょう。
第4章「いのちの森」では、〝静寂の空と海の絵画〟〝個性ある木々の森のオブジェ〝などが展示されています。
この章の説明には、〝ラスコー洞窟壁画の時から、動物の絵が描かれてきた〟とあります。
展示されている海や森の作品に身をおくことで、〝動物の絵を残した太古の人々の思い〟が少しわかるような気がします。
そして全体を見回してみると、作品の多くに制作者が意図しないPrimitiveな精神が宿っているように思えてきます。
見る側の私達にも、素朴や原始的なものに憧れる同じ思いがあることに気が付きます。
自分では直接見ること触れることができない太古の絵画の中に、生命の息づかいや暖かいものを感じるのは、そういった同じ思いがあるからなのかもしれませんね。
色々と書き立てましたが、
自然っていいな、生きることはすばらしいな、と素直に思える企画展。
たくさんの動物と自然の中に身をおいて、まるで森林浴をしたかのような爽快な気分になりました。
最後に…
猫好きさんにもお勧めな企画展です!!
第5章「ねこの園」ではツンデレ猫たちが大集合です。
*参考図書
西洋美術史 高階秀爾 美術出版社
西洋・日本美術史の基本 美術出版社
企画展 パンフレット
最後までお読みくださり有難うございました☆彡