【後編】褒められることも、責任も、お金も。すべてを受け取る“自分の仕事”
見た目も味もおいしいクレープは、認知された途端に売上が伸びた
カフェに業態を変え、クレープをメインにしてから約4ヶ月。
ブルーベリーのクレープを販売しはじめた頃、「これはいけるぞ」という感覚がわいてきたといいます。
今村さん:
「この時期にクレープの抜本的改革をして、クオリティが上がりました。
同時にSNS経由で知ってもらう機会も増えたので、クオリティUPと認知UPの相乗効果で売上が伸びました。
インスタグラマーさんが取り上げてくださったり、Twitter(現:X)で人気の坊主さんの企画で入選したこともあり、お客さんが急に増えました。
見た目にこだわったクレープを作っているので、写真を見ると『おっ!』と目にとまりやすいんだと思います。」
仮説を立てて検証。一喜一憂しないことが大事
まだ1年目の実験段階ということで、目標達成よりも、振り返ることを重視しているそうです。
今村さん:
「成果を出すには、仮説を立てること、実際にやってみること、振り返ることの3つをグルグル回すことが大事だと思っています。
仮説を立てないと、一喜一憂して終わってしまうので。
趣味ならそれでいいかもしれませんが、仕事にしていくとなると、一喜一憂して終わりでは続きませんよね。
闇雲に動くと、その分無駄も多くなります。
仮説を立てることで、カラーバス効果が起きるという良さもあるんですよ。
※カラーバス効果とは:
ある一つのことを意識することで、それに関する情報が無意識に自分の手元にたくさん集まるようになる現象のこと。
たとえば抹茶クレープの場合、『抹茶のおいしさは○○にあるだろう』と仮説を立てます。
すると、SNSを見ているだけでも抹茶の細かい情報が目に入ってくるようになるんです。
仕事として続けていくのであれば、思いつきで行動して一喜一憂していては遠回りになります。
自分なりに仮説を作ってみるのが、どんな商売でも大事だと思いますね。
振り返りについては、何が良くて何が悪いのか精査することで、次回から精度の高い仮説を作れるようになります。
悪いところに目を向けて落ち込むこともありますよ。
でもたくさん寝て、妻に話を聞いてもらうと回復します。
気持ちが元気になってから、現実的に修正していますね。
じつはクレープを提供しはじめた頃、クリームに問題がありました。
動物性のクリームを使っているので、朝一に作ったクリームがお昼過ぎには分離してしまうんですよね。
お客さんがSNSに投稿してくださった写真を見て、『あぁ、これは食べにくそう……』と心が痛むこともありましたが、研究を重ねることで、改善できました。
悪いところから目をそむけずに、より良くしていきたいです。」
無料の壁打ち相談やSNSから広がるコラボの輪
農家さんや他のパティシエさんとコラボすることを大事にしている今村さん。
その起点にあるのは、SNSを中心としたインターネット上での交流です。
今村さん:
「コラボについては、お店の立ち上げ時から意識してきました。
『壁打ち相談室』を毎月無料で開催していますが、ここからコラボへとつながっていくことも多いですね。
1対1でじっくりお話しする中で、『こんなオファーをしたら、この人は喜んでくれそうだ』と想像できるようになってきます。
無料で開催していますし、相談を聞きながら作成した資料をお渡ししているので、みなさんとても喜んでくれます。
喜んでもらえることを無料で提供し続けることで、良いつながりが生まれている気がします。
お店としての直接の利益にはなりませんが、相談サービスは提供するのにお金がかかりませんし、オンラインなので気楽ですし、トータルで見たときには恩恵の方が大きいですね。
Twitter(現:X)では『この人のやっていることや価値観、いいな』と感じたら、いいねをしたり、リプライで交流するように心がけています。
いいなと思った人がどんな人をフォローしているか、までチェックすることもあります。
価値観の近い、まだ出会っていない人がいるかもしれないので。
コラボをしたりSNSで交流したりすることの良さとして、『そういう人たちと仲が良いのだな』という印象づけができることもあります。
穏やかな料理人と仲が良い印象を持ってもらえることで、さらに価値観の合う料理人仲間とつながれると思っています。」
今村さん流の身になるインプット方法
今村さんは“勉強して満足”ではなく、身になるインプットを繰り返しているように見えます。
今村さん:
「Web関係のことは、YouTubeなどで概要をつかんで、必要なことはさらにリサーチしていきます。
最近はChatGPTをフル活用していますが、こんな流れで勉強しました。
分かりやすさに定評のある中田敦彦さんの動画を観てざっくり概要をつかむ↓
エンジニアさんの動画を観て詳細な概要をつかみ、課題を分割する
↓
分割した課題ごとで詳細に調べていく
こんな順番で勉強しました。
▽ 今村さんがChatGPTを使って作成した画像がこちら
新作メニューを出すときには、前月に東京のおいしいお店をリサーチして、実際に食べに行くことが多いです。
ただ食べに行くのではなくて、まずはOneNoteというツールを使ってアイディアをまとめます。
仮説を立ててから、検証のために食べに行きますね。
アイディアを広げる時には、マインドマップを使いながら論理的にまとめています。ブランドのコンセプトとかですね。
人にも共有しやすいので便利です。
自分の仕事をつくる上で参考になった本は、『自分が欲しいものだけ創る! スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング』です。
誰か一人の想いがあれば商売は始められるんだな、と納得できました。」
「自分の仕事」を作る上で大切なのは、目的を決めること
今村さん:
「自分の仕事と言っても、目指すところは人それぞれですよね。
ずっと夢見ていたカフェを開いて自己実現したい人。月10万円稼げたらOKな人。本業にしたい人。
目指すものによって、目標も手段も変わってきます。
目的が定まらないと、いつまでもやることが定まりません。
個人的には、人生の目的を言語化してから仕事の目的を考えることをおすすめします。
自分の場合、人生の目的は妻や家族と幸せに過ごすこと。
鋸山BASEの目的は、無理のない範囲で楽しみながらクレープを探求して、お客さんにホッと一息ついてもらえる瞬間を作っていくこと。
仕事の目的が、人生の目的を超えることはないと思っています。
それもあって、鋸山BASEは2023年12月から産休・育休期間として長期休業に入りました。
お店が急成長中のタイミングではありましたが、仕事よりも妻や家族と幸せに過ごすことを大切にしたかったので決められたことです。
人生の目的については、壁打ち相談室でも聞くようにしています。
『やりたいことはいろいろあるけど、何をしたらいいか分からない』という方も、目的やゴールを定めれば、あとは自然にやることが決まってくるのではないでしょうか。」
「自分で0からお店を作ることは、自分成分100%なので楽しい」と語ってくれました。
今村さん:
「雇われて料理人をすることと自分でお店を経営することは、ずいぶん違うものだなと思います。
なぜみんな独立したがるかといえば、作りたいものを作れるからですよね。
雇われていると、技術は学べますが、自分のやりたいことができるとは限りません。
褒められることも、責任も、お金も、自分成分100%でやれるので楽しいです。
自分成分100%で仕事をしたい方は“自分の仕事”をつくると楽しいと思いますよ。
毎月壁打ち相談をしているので、気になる方はぜひTwitter(現:X)をチェックしてください!」
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偶然が重なってオープンすることになった鋸山BASE。
自分の強みを把握した上で、まわりの人の才能を素直に借りること。
みずから価値を提供することで、良いつながりの循環を生むこと。
遊び心を持ちながら、ブレない芯を持つこと。
自分の仕事をつくる上で、参考にしたいポイントをたくさん聞けました。
今村さん夫婦の友人として、そして鋸山BASEのファンの一人として、お店の再開が待ち遠しいです。
(企画・取材・文:伊藤七)