わたしの本棚150夜~「映画を早送りで観る人たち」
日曜日朝8時からのTBS「サンデーモーニング」で、以前、この本が紹介されたとき、女子アナウンサーの方がこう言われました。
今のZ世代(10代~20代)が1日に受け取る情報量は、江戸時代の人が1年に受け取る情報量に匹敵するそうです。
ちょっと衝撃な事実でした。情報過多。受信過剰の時代。そんな時代背景から、若者を中心に、2時間の映画を1時間で観たり、つまらないものは倍速視聴、観る前にネタバレチエックの習慣が広がっているそうです。この本はそんな現代の風潮、一体何がそんな視聴スタイルを生み出すのかといった消費社会の実態をあぶりだしており、興味深く読みました。
☆「映画を早送りで観る人たち」 稲田豊史著 光文社新書 900円+税
動画配信サービスを利用してないので知らなかったのですが、2019年からネットフリックスには倍速視聴ができるようになっていたそうで、2022年2月現在の日本では、再生速度を0.5倍、0.75倍、1倍、1.25倍、1.5倍で選べ、「10秒送り」「10秒戻し」の機能もあるそうです。20代では、半数近くの男女が倍速視聴を経験しているというアンケート結果を提示しています。「タイパ」といって、時間コスパをよくするために、多くの情報量から観ておくべき作品を選ぶさいに倍速視聴が用いられている、とあります。
年間1000本を超える公開作品の映画から、何を選んでみるかは、確かに大変です。「観たい」のではなく、内容を「知っておきたい」若者たち。話題についていくために仲間間での同調圧力。時間を無駄にしたくないために失敗したくない作品選び。情報があふれ、未来までも可視化される社会、SNSの発達による誰でもが主張でき繋がる時代。現代社会の状況をいろんな資料、インタビューをもとに紐解いていきます。5章からなります。
わたしがぎょっと思ったのは、第3章失敗したくない若者たち、の中で、首都圏で生活する大学生(9校の私大)の親の平均仕送り額(家賃をひいたもの)が、1990年には73800円もあったのに、2020年には18200円になっている点です。この30年で急下降。その結果、学生はアルバイトに精をださなくてはならず、昔より授業にも出席を求められ、時間なく、お金なく、一方で多大な情報コンテンツから仲間との話題に参加するために、観る作品を動画配信で倍速でみるという循環でした。
第1章早送りする人たち、では、芸術作品は鑑賞モードであり、娯楽作品は情報収集モードであるという若者の考え方を提示されました。わたし自身は娯楽映画や小説も好きで、そこにたゆたい元気や希望を貰ったこともあるので、時間効率を求めるその割切りに少し残念な気持ちにもなりました。
第2章セリフで説明してほしい若者たち、では、「口では相手のことを嫌いとうけれど、本当は好きみたいな描写」というのは今の若者に通じないという脚本家のエピソード。「間」や「描写」で、読者が想像するという観方が薄れてきているというのは、哀しいです。
第4章好きなものを貶されたくない人たち、の中では評論家の書評本が売れず、インフルエンサーのTikTokで発信された本の紹介のおかげで、増刷になった本の話から、単純化、幼稚化を憂う話やインターネットが社会という若者の世界観などがつづられていました。
第5章無関心なお客さまたち、おわりに、では、Amazonアプリ「キンドル」では、それまでにページをめくったスピードをもとに、読了までの目安時間まで表示する機能がついている現実。現代人は忙しく、効率を求めがちな姿勢がつづられていきます。
ファスト映画にはもちろん反対です。若者の倍速視聴に疑問でした。ただ、視聴している若者たちの状況はあまり知らなかったので、この本は現代社会事情を考察するひとつの側面を提示してくれていると思いました。
#映画を早送りで観る人たち #稲田豊史 #光文社新書 #タイパ