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わたしの本棚24夜~「デトロイト美術館の奇跡」

 小さいころから成りたい職業があったりする人は稀で、たいがいの人は18歳のとき、ぼんやりと自分の将来を想像するのではないでしょうか。卒業して就職してしまうとそれまでで、日々の生活に追われてしまいます。作者の原田マハさんは関西学院大学文学部を卒業したのち、就職し、美術関係の職業に就いたこともあり、もう一度、早稲田大学第二文学部美術学科を受けなおしたという経歴の持ち主です。美術に関する豊富な知識から紡がれる物語は素敵で、この本は、特に事実を基にしているだけあって、胸に迫るものあり、温かい涙で溢れました。

☆「デトロイト美術館の奇跡」原田マハ著(新潮社)1320円

  デトロイト美術館は、2013年頃に市が財政破たんに陥り、市民や年金生活者の暮らしを守るために美術品を売ってお金を得るという話が進み、存続の危機にさらされます。この小説は、そのとき、美術館存続に立ち上がった市井の名もなき人や美術館のキュレーターの話です。セザンヌの妻オルタンスの肖像画を愛するコレクター。自動車溶接工だった老人は美術には無縁だったのですが、亡き妻とのデートがこの美術館であり、彼女が好きだったオルタンスの肖像画を守りたい願います。デトロイト美術館のキュレーターは、売ってしまうと二度とこれらの美術品に会えないことを痛切に感じています。3人それぞれの環境を描き、願いを描き、その思いが交錯したとき、奇跡が起こりました。美術館という場所が、美術品が、こんなにも人の生活を豊かにしてくれるものなんだ、と気づかせてくれ、その奇跡に涙した作品です。

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