わたしの本棚134夜~「東山道エンジェル紀行」
不思議な本でした。ショッキングピンクのきれいな装丁、開けると、ピンクの紙とグレーの紙に物語が展開していきます。寺門孝之氏のポスターのような繊細な絵が随所についており、大人の絵本といった感覚です。
☆「東山道エンジェル紀行」 町田康著 寺門孝之絵 左右社 1980円(税込み)
帯にパンクファンタジー! 小説家と画家の魂が鳴り響く!構想期間20年、幻の傑作がついに完結。「俺は生涯、死ぬまで追放者だ」とあります。
目次(8編の掌小説からなります)
1.泣き女
2.人虎
3.水中舞踏家
4.音楽女王
5.郷里にて
6.それでもいろんなことが
7.かんねん舟
8.かたまった夕景
感想
どれも追放者の立ち回りが面白く、笑いの中に、少しだけほろ苦さのある短編ですが、特に好きなのは、「水中舞踏家」と「音楽女王」の話でした。ゲートの役人から「早くいかんかあっ」と怒られる追放者が迷いこんだ場所には、イルカと少女の水中ショーがあり、そこに藻のようにあらわれた水中舞踏家のおじさん。高級すしを食べそこね、挙句の果てに、水中舞踏家から「おまえはそうやって本当のことだけ言って一生、山野をさまよえ。俺は町で嘘の踊りを踊り続ける」と言われる追放者。水中舞踏家もまたかつて追放者でした。どことなく、哲学的な話でもあり、クスクスと笑う会話の言葉遊びもありのパンクファンタジー。
寺門孝之氏の絵がアート的でもあり、文章と共鳴しあっています。写真は「人虎」の話に添えられた絵です。今までの小説、本、という概念を壊したような装丁であり、大人の絵本といって片付けられないアートな色の濃い、画期的な小説本でした。