わたしの本棚132夜~「本当は逢いたし」
私淑する俳人も多く、こういうふうに齢を重ねられたら素敵だなあ、と思う女流俳人池田澄子氏からのエッセイ集です。日本経済新聞、「俳句α」「うえの」に連載したエッセイから60余編が選ばれています。この10年、3・11からコロナウイルス禍までの間に綴った作品です。
☆「本当は逢いたし」 池田澄子著 日経BP社 2200円+税
澄子氏の生い立ちから、日常のささやかな出来事を、俳句を織り交ぜながら語られていきます。どのエッセイも、自然体な感じです。
60本のなかで、わたしが特に好きなエッセイは、92歳の看護師の叔母さんのことを描いた「流れる」、そして俳人永末恵子氏との交流を描いた「明石焼き」です。「明石焼き」に書かれている俳句に対する姿勢には、共感でした。澄子氏も永末氏同様、本当に俳句が好きで仕方ない女性なんだろうな、と想像できます。「俳句を作ることで何かを得たいのではなく、ひたすら俳句を作っていたい人。ファンは多いが先生とか言われない」
62歳で亡くなった俳人永末恵子氏とは、お互いの家に泊まりに行く中で、澄子氏とは20歳近くも年下だったそうです。「俳句をつくり、句集におさめること、それ以外に思いを至らせる能力を持ち合わせていない」そんな二人の交流は、早すぎる永末氏の死によって終わり、心にじーんときて、涙腺ゆるみました。
戦争の爪痕、恩師の三橋敏雄氏、摂津幸彦氏、夫君、宝生あや子氏、父の死、友人の死などが、戦争、阪神大震災、東日本大震災と交差しながら語られおり、胸打つとともに、改めて日常のありがたさを教えてくださったようなエッセイでした。
今は亡き人に逢いたい時に、過去に戻りたくなるという澄子氏。本当は逢いたし、にこめられた深い意味。わたしが澄子氏に初めて会ったのは、「船団」のイベントであり、もう8年も前になり、いつも姿勢よくて、優しく励ましてくれた俳人です。どのエッセイにも温かい視線があり、澄子氏の自作の俳句がついており、文章だけでなく、俳句も楽しめる一冊でした。
☆本当は逢いたし拝復蝉しぐれ
☆先生ありがとうございました冬日ひとつ
☆彼の世も小春日和か郵便局あるか
☆雪見障子みんなに若い日があった
☆じゃんけんで負けて蛍に生まれたの