使うほど劣化するもの、使うほど良くなるもの
引越しの多い生活だった。大学入学、留学、帰国、就職、転職の度に、捨ててはまた新しく買う、を繰り返す。
ニトリやIKEAにはよくお世話になったし、今の100均は、本当に感動するくらいの品揃いだ。私の部屋は潔いくらい、安くて便利で、愛着のないものばかりだった。
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それでも、24を過ぎたあたり(転職してやっと住居が落ち着いた頃)から、私にも一人前にこだわりが出てきた。コスパだけでものを選ぶのを辞めた。いつまでも学生時代のような野暮ったい部屋はごめんだ。
そんな時、何気なく読んでいた雑誌に、物凄いことが書いていた。
プラスチックは使えば使うほど劣化するけれど、漆は使えば使うほど良くなる。
プラスチックは劣化する、の心当たりは十二分にある。(プラスチック製タッパー愛用者)
でも、何だってそうだ。服も、コップも、かばんも、使うほど汚れて、欠けて、ダメになっていく。家電だってiPhoneだって、買った時は最新でも、どんどん型落ちして価値がすり減っていく。買った時が、一番良い状態。
そう思っていた私には、真逆の発想だった。とにかく、漆が気になった。漆とはなんぞや。
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漆とは、ウルシの木の幹から採取した樹液 (生漆 ・きうるし) 。もしくはそれを精製したもの。塗料・接着剤としての役割を果たし、日本では縄文時代から漆の活用が確認されている。
(引用:さんち 〜工芸と探訪〜 )
調べれば調べるほど、漆が気になって、どうしても使ってみたくなった。
都内の主要なお店を回って下調べを終えた私は、人生で初めて、漆塗りのお椀を買った。それまで使っていたプラスチックのお椀の、ちょうど50倍の金額。高いけど、どうしても使ってみたい。コスパだけで生きていたら、決してたどり着けなかったお椀。
(ちなみに山中漆器です)
これが、もう、本当に良い。手触りも、持った感覚も。お味噌汁が美味しくなった。毎日のように使って、もうすぐ1年が経つけれど、ますます手に馴染んで、愛着が湧いてくる。
今思えば、漆塗りのお椀を迎えてから、生活も少し整った。お味噌汁を作る時、ちゃんと出汁をとるようになったし、食べ終わった後、すぐに片付けるようにもなった(前は洗い物が苦手でした。ちょっとだけ。)収納場所も整理して、釣り合わない、安っぽい食器は手放した。
ああ、本当に買ってよかったな。
これからも、大事に使い続けていくのが楽しみ。
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