サボることを教えてくれた上司たち
学級委員ぽい、とよく言われてきた。自分ではあまり自覚はないけれど、確かに宿題は必ず終わらせるし、待ち合わせには遅れないし、やってはいけないことは、絶対にやらない方だ。
学生のときは、この性格に助けられていた。
与えられた課題を期日までに終わらせ、決められた時間に授業に出る。やるべきことがクリアだったし、きちんとこなしていくことで評価された。夏休みの最終日に、終わらない課題に絶望するというシチュエーションにも無縁だった。
社会人になってからも、この真面目な学生気質は続いた。こうあるべきという気持ちが強く、どんどん自分の首を絞めてしんどくなって、新卒で入った会社は1年と半年で辞めてしまった。
社会人2年目で転職した外資系の小さな会社。働くことに自信を失いかけていたこの頃に、ここで出会った2人の上司から、働く上で上手く息抜きをするマインドセット(というと少し大げさかもしれないけれど)を教わった。
◇
その上司は、私のちょうど10歳上の女性だった。都会的でおしゃれなその人は、頻繁にかかってくる海外からの電話にスマートに対応し、海外出張も多かった。まさに、東京で働く無敵キャリアウーマンという感じ。
ある日、その人と2人で外出する機会があった。足を引っ張らないようにと緊張しながらオフィスを出たところで、その人が声をかけてきた。
「ねえ、ちょっとコーヒー飲みにいかない?今日まだ一杯も飲んでないんだよね。」
突然の提案に拍子抜けしつつも、はい、とだけ頷き近くのカフェに入った。
就業時間中にカフェにいていいのかな・・他の人たちにサボってるって思われないかな・・と落ち着かない私に、その人はこう話してくれた。
「やることやってるんだから、たまには息抜きも必要でしょ?私があなたの歳のころ、朝起きて会社に行くのが面倒なとき、上司に『頭が痛いので今日は休みます』って電話してたよ。迷惑かけないように休むタイミングは見計らってたけどさ。そうやってたまには息抜きしないと、長く働けないでしょ」
意外だった。この無敵ウーマンも、ずる休み(本人はそうは言っていない)してたんだ。会社行きたくないって思ってたんだ。こうやってコーヒー飲んで休んでるんだ。そう思ったら、肩の力が抜けて身体が軽くなった。
コーヒーを飲み干した後、私たちは何事もなかったかのように仕事に戻った。
◇
もう一人の上司。その人は、私が属していた営業チームのリーダーの男性。ムードメーカー的存在で明るく話しやすく、上下関係を意識させない人だった。
その人と2人で外出した帰り道、まだ15時を過ぎた頃だった。直帰するには早すぎるし、もちろんオフィスに戻るつもりでいた。すると上司が声をかけてきた。
「近くに最近リニューアルしたお店があるんだけど、見ていかない?なんか食べてこうよ」
オフィスに戻るのは少し面倒だったし、自分の上司と一緒ならサボってるってことにならないか、と付いていった。おしゃれなセレクトショップに入り、併設のカフェで一服しているときに、上司はこう話してくれた。
「こうやってトレンドを知っておくのも、広い意味で仕事に生かせるでしょ。とりあえずオフィスに帰ってちょっと事務作業するより、いい時間の使い方だと思うんだよね。だから一人で外出したときも、オフィスに帰らなきゃって思わなくていいからね。これも仕事のうちって思って、いろんなお店に寄って時間過ごせばいいよ。そうやって上手く息抜きもしてね」
こんな仕事の時間の過ごし方があるんだと驚いた。
◇
この上司たちとの出会いは、私には新鮮だった。
みんな難なく働いているように見えて、実はいろんな形で上手く息抜きをして、バランスを保っている。
少しの息抜きは、そのあと、気持ちよく働くための大事な時間。
そう思ったら、サボるのは悪いことじゃない。というより、私がサボりだと思っていたことは、そうじゃない。
上司からこのマインドを学んだ時、真面目な学級委員からやっと卒業できた気がした。心に余裕を持ち、しなやかに働く2人の言葉は、その後、社会人生活を続けていく上でお守りみたいに私の心に残り続けた。