桜子は何を覚悟したのか? ~矛盾を抱えて生きることについて|【EPISODE6:青龍】「仮面ライダークウガ」に学ぶ(1)
※引き続き、「仮面ライダークウガ」の【EPISODE6:青龍】を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。
【ポイント③】桜子は何を覚悟したのか?
<1>
本話は、桜子が<覚悟>を決めるエピソードです。
EPISODE2では雄介が<戦う覚悟>を、EPISODE4では一条が<雄介を仲間と認める覚悟>を決めた。
今度は桜子の番だ!……というわけですね。
<2>
そもそも桜子は、
・1:雄介の友人。クウガの正体が雄介だと知っている
・2:古代文字の専門家 → ベルトに刻まれた文字を解読して、雄介をサポートすることができる
……というキャラです。
<3>
ところがいま、桜子は悩んでいる!
彼女の悩みは、
・悩み1:五代くん、どうしてあなたが命を賭けて戦うの?危ないから止めてよ!
・悩み2:私が古代文字を解読しなければ、五代くんが変身することはなかったかも!
……の2つ。
そしてこの結果、桜子は古代文字を解読する気になれないでいます。
だって【古代文字を解読すること = 雄介が戦うのをサポートすること】ですからね。戦ってほしくない桜子としては、そりゃ解読する気になれないのも無理ありませんよね。
<4>
と、以上が前話までの経緯です。
そして本話では……
・Step 1:桜子が、みのり(雄介の妹)に悩みを吐露する「五代くんの力にならなければと思う。しかし、どうしても古代文字を解読する気になれない!」
・Step 2:それに対して、みのりが微笑んだ「それでいいんですよ。普通に考えて、普通にすればいいんです」
・Step 3:桜子はみのりの言葉に力を得て、笑顔を取り戻す
・Step 4:桜子が古代文字の解読に着手。そして、重大なヒントを見つける。かくして雄介は勝利した!
<5>
さて、問題はここからです。
なぜ桜子は古代文字を解読する気になったのでしょうか?一体全体、桜子にどのような心境の変化があったのか?
これがですね、なかなかどうして理解しづらいところだと思うんですよ。
上述の通り、みのりの言葉がきっかけだということは間違いありません。しかし、みのりの言葉のどこが桜子を奮起させたのか、いまひとつわからない。
「……ん?どういうこと?」と感じた鑑賞者は少なくないと思います。
<6>
桜子とみのりのやりとりを一言一句振り返ってみましょう。
---
桜子 私、逃げてきちゃったの……。
みのり 逃げてきた?
桜子 「五代くんの助けになるようにしっかりしなきゃ」ってわかってはいるんだけど……いろんなことがあって、怖くなって……五代くんがケガまでして頑張ってるのに、自分だけ逃げたいなんて……。
みのりが微笑む 思っていいんですよ。
桜子 えっ?
みのり いいんです、それで。
桜子 でも……。
みのり 普通に考えて、普通にすればいいんですよ。
桜子 普通に?
みのり はい。
※この後、桜子はにっこりほほ笑んで「みのりちゃん、私行くね。ありがと!」。そして古代文字の解読に着手する。
---
さて、いかがでしょうか?桜子がどうして奮起したのかわかりましたか?(いや、わからぬ!)
<7>
「みのりの言う<普通>がキーワードだろうな」と感じた方は多いと思います。
なるほど。
では、<普通>とは何か?
おそらくみのりが言いたいのは、「難しく考えることはありません。無理する必要はないのです。ありのままの桜子さんでいい。感じたままに素直に行動してください」といったことでしょう。
しかし、ですね。
桜子にとっての<普通>というのは、「五代くん、どうしてあなたが命を賭けて戦うの?危ないから止めてよ!」「私が古代文字を解読しなければ、五代くんが変身することはなかったかも!」という感情。
ところが……そう!この後、桜子は古代文字を解読して雄介をサポートするんですよ。
「戦わないでほしい」と思っていた桜子からすれば、これ、「<普通>ではない行動」ですよね。
「普通でいい」と言われたのに、なぜ普通ではない行動を取るのか……?
という具合に、一筋縄では理解しがたいこの場面。
私、アレコレ考えてみまして、「たぶんこういうことではないか?」という1つの仮説にたどりつきました。
以下、ご紹介します。
<8>
ご注目いただきたいのは、桜子の悩みの中身です。
先ほど私は「桜子の悩みは以下の2つ」とご説明しました。
・悩み1:五代くん、どうしてあなたが命を賭けて戦うの?危ないから止めてよ!
・悩み2:私が古代文字を解読しなければ、五代くんが変身することはなかったかも!
多くの鑑賞者の方に「うん、確かにそうだ。桜子はこの2つについて悩んでいたな」とご同意いただけると思います。
そう、作中には間違いなくこの2つが描かれている。
……が、しかし。
桜子の悩みは本当にこの2つなのでしょうか?
<9>
というのも……
・事実1:桜子は善良な市民です。というか、雄介と友人であることからして、人一倍正義感の強いタイプと思われる。当然、罪なき人びとが怪人に殺されるのを看過することはできない。心を痛めているはずです。
・事実2:その上、桜子は仲間(夏目教授ら遺跡調査団の面々)を怪人に殺されています。怪人に対して怒りや恨みを感じているでしょう。
・結論:つまり、桜子は「怪人を撃滅したい!」という気持ちを持っているに違いないんですよ。
さらに……
・事実:現状、怪人を倒し得るのは雄介だけです。
・結論:したがって桜子の中には、「五代くん!怪人をぶちのめしてよ!」という想いがあるはず。
<10>
では、改めて問いましょう。
桜子の抱える<悩み>とは何か?
それは……【「五代くんが心配。戦ってほしくない!」という欲求と、「「五代くんに怪人をぶちのめしてほしい!」という欲求。この相反する2つの欲求を抱えているがゆえの葛藤】なのです!
<11>
ここまでくれば、桜子の心境の変化が理解できるでしょう。
桜子は、相反する2つの欲求を抱えて身動きできなくなっていた。「私、どうしたらいいの?どちらの欲求に従って行動すればいいの!?」。
確かに雄介のことは心配です。しかしその一方で、怪人をこのまま放置していいはずがない!嗚呼、どうすれば……!!
それに対してみのりが言った「普通でいい」。
つまり、「相反する欲求を抱えていたって構わない」と桜子を肯定したのです。もう少し噛み砕くなら、「無理していずれか一方の欲求に絞る必要はない。相反する欲求を自分の内に抱え、その時々で最善と思う行動を取ればいい」ということですね。
<12>
ところで……この「相反する欲求を自分の内に抱える」という状況は、決して特別なものではありません。
例えば、
・例1:仕事も頑張りたい。家庭も大切にしたい。
・例2:勉強も頑張りたい。恋愛も大切にしたい。
・例3:痩せたい。でもおいしいものを食べたい。
……などなど、私たちは往々にして<突き詰めて考えると相反している2つの欲望を同時に抱き、それを両立している>ものです。
「普段はダイエット!でも今日はデザート食べちゃお♥」なんて具合ですね。
悪く言えば「どっちつかず/なあなあ/場当たり的」ということになりますが、まぁ、それが人間というものですよね。
<13>
話を戻して……みのりの言葉を受けて、桜子は【「五代くんが心配。戦ってほしくない!」「五代くんに怪人をぶちのめしてほしい!」という相反する2つの欲求を同時に抱く自分】を受け入れることを決意しました。
だからこの先、桜子は雄介の身を心配しつつ、そして彼を引き留めつつ、しかしその一方で雄介の戦いをサポートすることになるでしょう。
「いまこの瞬間も怪人が暴れ回っているかもしれない」と不安を感じつつも雄介を引き留め、あるいは「雄介が死んでしまうかもしれない」という恐怖に怯えつつも彼の戦いをサポートするのです。
<14>
矛盾を抱えて生きるのは辛いことです。
「仕事を頑張るぞ!それ以外はすべて切り捨てる!」なんて人がいたら、それはとてもシンプルで、たぶん生きやすいでしょう。
だって、何一つとして迷うことなく仕事に没頭すればいいのですから、これほど楽なことはありません。
しかし……やっぱりそれは異常です。
矛盾を抱え、その内に生きるのが人間。桜子はこの意味において、<普通>の道を選んだと言えるでしょう。
【ポイント④】柔軟であれ!しなやかであれ!
ところで……ここまで申し上げてきたことに関連して、ご注目いただきたいシーン・設定が2つあります。
▶ 注目1
ミッドポイントで、悩める雄介におやっさんがアドバイス(?)を送ります「赤か青かなんてのは状況次第だよ。ソースと醤油、それぞれによさがあるだろ」。
これ、一見すると「おやっさんがまた訳のわからぬことを言っているぞ(笑)」という愉快なだけのシーンなのですが……よくよく考えてみると、おやっさんは随分と興味深いをことを言っていますよね。
そう、「状況次第」!
▶ 注目2
バッタ怪人と戦う雄介は、それまでの「赤い戦士(マイティフォーム)」ではなく「青い戦士(ドラゴンフォーム)」に変身します。桜子が解読した古代文字によると、これは「水の心の戦士」と言うそうです。
そう、「水」!
---
「状況次第」という言葉にも「水」にも、
・柔軟
・しなやか
……といったイメージがありますよね。
そして、【「五代くんが心配。戦ってほしくない!」「五代くんに怪人をぶちのめしてほしい!」という相反する2つの欲求を同時に抱く自分】を受け入れた桜子もまた、柔軟でしやかな存在と言えるでしょう。
つまり本話のキーワードは「柔軟・しなやか」であり、「柔軟・しやかな(なもの・考え)」が善と描かれていると言えるでしょう。
続きはこちら!!
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