ヒーローはいつか<日常>に戻れるのか? ~バトルマニアに内在する「矛盾」について|【EPISODE7:傷心】「仮面ライダークウガ」に学ぶ(2)
※引き続き、「仮面ライダークウガ」の【EPISODE7:傷心】を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。
【ポイント⑤】ヒーローはいつか<日常>に戻れるのか?
<1>
本話には、「一条が恋人について問われるシーン」が2度登場します。
▶ 1度目(第1幕)
警視庁の射撃訓練場。一条と杉田がアレコレ言葉を交わしながら射撃訓練を行う。その中で……
---
杉田「しかし、こう長引くとは思ってもみなかったな。お前も早いとこ長野に帰って彼女の顔でも見たいだろ」
一条はニコリともせずに「いませんよ、そんな」
▶ 2度目(第2幕)
一条が、科学警察研究所の榎田ひかりと久々に再会したシーン。
---
一条「榎田さん」
ひかりが笑顔になって「久しぶり、一条くん!東京に戻ったんだって?」
一条「長野県警から出向です。警視庁の合同捜査本部に」
ひかり「……あら、その顔は彼女できた?」
一条はニコリともせずに「いえ、そんな」
ひかりは不思議そうに「そう……?」
一条「ええ」
ひかりは腕を組み、あごに手を当てて一条の顔をまじまじと見つめる「おかしいなぁ」
一条はちょっと戸惑った感じで視線をそらし、あごに手を当ててみせる
<2>
はて。
これらのシーンは何を意味しているのでしょうか?
「特に意味のないシーンだよ」と片づけることはできません。だって一条の恋人についてだなんて、これまで1度も語られたことがないんですよ。それだのに、本話では突然2度も……!
これはもう、制作者の皆さんが鑑賞者に何かを伝えようとしているに違いありません。
一体全体、何を伝えようとしているのか?
<3>
ということでいろいろ考えてみたのですが、これ、「一条は最近いきいきとしている」ということを表しているのではないでしょうか。
一条は最近いきいきとしている!彼からはリア充のオーラが立ち上っている。だから周りの人は「おっ。こいつは恋人がいるに違いないぞ」と誤解した。ゆえに、1日に2度も彼女について訊かれた……という次第です。
<4>
では、なぜ一条はいきいきとしているのか?
作中では理由は明言されていませんが、おそらくは……そう、怪人と戦っているから!
だって、考えてみてくださいよ。
怪人との戦いの日々は……
・1:「俺は正義のために戦っているんだ」という満足感が得られる!
・2:当然、自己肯定感が高まる!
・3:また、「気を抜けば死ぬ」という環境ですからね。途方もないドキドキ感が得られる!
・4:もちろん、勝利した時の高揚感は半端ではない!
そう、アドレナリンやらエンドルフィンやらがドバドバ放出される環境です。常時絶頂状態と言える。
そりゃ、いきいきするでしょうよ!
<5>
ところで……ここで思い出していただきたいのが、「バトルマニア」という概念です。
バトルマニアとは、敵と戦うこと自体に喜びを感じる戦士のこと。
最も有名なのは、「幽遊白書」の浦飯幽助でしょう。
あるいは、「ドラゴンボール」の孫悟空もそうです。
幽助や悟空は<平穏な日常>を守るために戦います(少なく最初の頃は)。
つまり彼らは、クウガ同様の正義の戦士です。
しかしですね、ここからが面白いところなのですが、
・問:戦いが終わった後、幽助や悟空は彼ら自身の守った<平穏な日常>の中で楽しく暮らせるのか?
……と考えてみると、はい、たぶん無理!
彼らは刺激がないと生きていけない!!
つまり、幽助や悟空は<平穏な日常>を守るために戦っているのに、彼ら自身は<平穏な日常>に満足できないんですよ。
嗚呼、この矛盾!
この矛盾を抱えた存在こそがバトルマニアであると定義できるでしょう。
一方、<非バトルマニアの戦士>といえば、「銀魂」の銀さんや「るろうに剣心」の剣心、そして「幽遊白書」の桑原が該当します。
彼らは幽助や悟空とは違って、<平穏な日常>に満足できる。必要とあらば武器を取って戦うものの、しかし戦いを恋しがったりはしません。
以上をざっくりまとめると……
・バトルマニア:<日常>に満足できず、戦場にしか居場所がない
・非バトルマニアの戦士:<日常>にも居場所がある
つまりバトルマニアとは、【アドレナリンやらエンドルフィンやらが放出されまくる環境に慣れすぎて、もう<日常>には戻れなくなった人】ですね。
そりゃ、殺すか殺されるかという環境に身を置いていた人からすれば、<日常>なぞ退屈で仕方がないでしょう。
<6>
そして……一条(や雄介)が命知らずの行動をとるたびにふと思うんですよ。彼らの中にはバトルマニア的な性質があり、怪人と戦う内にそれが膨らみつつあるのではない、か。
一条(や雄介)が、幽助や悟空に近づいていくのか、それとも銀さんや剣心、あるいは桑原のようにいつか戦いが終わった後に<平穏(で退屈)な日常>に戻ってこれるのか、本話時点ではまだわかりません。
しかし、一条が恋人について訊かれるシーンは、「一条はそれほどまでにいきいきとして見えるのか……。やはり彼はバトルマニアへの道を進んでおり、いつか怪人が全滅したとしてももう<日常>には戻ってこられないのではないか」という不安を呼び起こすのです。
【ポイント⑥】一条はやっぱり……!?
<1>
上記に関連して、あと2つ興味深いシーンをご紹介しましょう。
---
第1幕、警視庁の射撃訓練場。
一条と杉田が、新しく支給された拳銃「コルトパイソン357マグナム6インチ」に弾をこめる。
杉田「357の6インチか。えらいもんが支給されたもんだな」
一条「これでも太刀打ちできるかどうか……」
杉田「こんなもん、もらったのはいいが、あいつら、人間に化けるんだろ?それでも俺たちは迷わず撃てるのかねぇ、こいつで」
一条「……やるしかありません」
<2>
杉田は、「怪人は人間に化けるそうだ。果たして俺は、人間に化けた怪人を射殺できるだろうか」と不安を漏らしているわけですが……これ、どう思われます?
まぁ、「怪人が出現して既に1ヵ月近く経つのに、まだそんなことを言っているのか!」「甘い、甘すぎる!」「日本警察は無能だ!」と言うこともできるでしょう。
しかしその一方で、これぞ<日本警察の良識・健全さ>という感じもしますよね。そりゃ人間そっくりの姿をしたものを殺すことには、抵抗があるでしょうよ。
<3>
さてそんな杉田に対して、一条は言います「やるしかありません」。
うーむ。「さすがは一条!覚悟が決まっている!」「カッコいい!」とポジティブに捉えることもできるでしょう。
が、しかし……。
<4>
さらにもう1つ、第3幕の以下のシーンにもご注目ください。
・Step 1:ハチ怪人が街で大暴れ。次々と人を殺していく。
・Step 2:そんなハチ怪人に、1人の男性(コウモリ怪人の人間体)が声をかけた。2人は何やら険悪ムードで言葉を交わす。
・Step 3:と、そこに雄介と一条が駆けつけてきた。雄介はすぐにクウガに変身し、ハチ怪人と戦い始める。
・Step 4:一方、一条は物陰に隠れていた男性(コウモリ怪人の人間体)を発見し、すかさず発砲。弾丸は男性の帽子に命中。男性は驚き、慌てて逃げ出した。
・Step 5:男性がコウモリ怪人に変身する(驚きのあまり変身が解けた様子)。一条は相手がコウモリ怪人だったと気づき、慌てて追跡を開始する。
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お気づきでしょうか……そう、一条は相手が怪人だと判明する前に発砲しているんですよ!それも頭部に!躊躇なく!
相手は、ハチ怪人と言葉と交わしていた男性ですからね。一般市民とは思えない。怪しい。「怪人の協力者だろうか?」と一条が訝しむのも当然です。
しかし……だからといって、いきなり撃ちますか!?
やはり一条は、バトルマニア化しつつあるのかもしれません……。
続きはこちら!!
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