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気がつけば異世界!!|『ゼロ・グラビティ』(3)

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テーマ発表!!


 第1回第2回に引き続き、映画「ゼロ・グラビティ」をベースに新しい物語を妄想します。

※「ゼロ・グラビティ」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 「ゼロ・グラビティ」は、「生きる気力」を失っていた主人公が急に絶体絶命の状況に置かれ、サバイバルする内に「生きる気力」を取り戻す物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!

三葉 承知しました。

嘉村 前回ご紹介したのは、「『ゼロ・グラビティ』 ~『山中のサバイバル』編」でした。


案②


嘉村 それでは「案②」にまいりましょう!

三葉 はい。「案②」は、「『ゼロ・グラビティ』 ~『気がつけば異世界』編」です。


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嘉村 ほぉ!

三葉 詳細をご説明する前に、「ゼロ・グラビティ」風の物語を作る時に注意すべきポイントを振り返っておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 さて、以上を踏まえて……「案②」!「ゼロ・グラビティ」と比較すると以下のようになります。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。舞台は異世界、そして主人公は転生者です。

嘉村 つまり、「異世界転生もの」ですね。


三葉 ええ、その通りです。

嘉村 ふむ。

三葉 ところで……一般的に、「異世界転生もの」の主人公は元の世界に未練を持っていません。淡白なものです。元の世界に戻ろうとして駆けずり回ったりはしない。

嘉村 確かに。

三葉 もちろん例外はありますが……これは、昨今の「異世界転生もの」の1つの特徴と言えるでしょう。

嘉村 ええ。

三葉 しかし、ですよ。よくよく考えてみれば……まぁ、考えるまでもないかもしれませんが……ある日突然トラックに轢かれて死に、神から「すまんすまん。きみ、本当は死ぬはずじゃなかったんだけどね。ちょっと手違いでさ。お詫びに転生させてあげるから勘弁ね」なんて言われ、そして問答無用で訳のわからぬ世界に放り込まれるわけですよ。「冗談でしょ!?勘弁してよ!」とショックを受けるのが普通だと思うんですよね。

嘉村 ふーむ。まぁ、そうかもしれませんね。

三葉 ということで……「案②」の主人公は、物語冒頭から塞ぎ込んでいます。彼はホームシックにかかり、家族や友人を想って涙に暮れている。「ゼロ・グラビティ」風に言えば、「生きる気力」を失っているわけです。

嘉村 なるほど。

三葉 さらに……。

嘉村 ええ。

三葉 多くの「異世界転生もの」では、主人公は神から「特別な能力」を授かります。「世界の理をぶっ壊すような強力な能力」を与えられる主人公も少なくない。いわゆる「チート能力」ですね。

嘉村 ふむ。

三葉 しかし……「案②」の主人公は違った!彼が授かったのは、「心の中で『スイッチ・オン』と唱えると、動物や植物がファンタジーな姿に擬人化されて見える能力」でした。

嘉村 えーと……つまり、「Snapchat」や「B612」などのカメラアプリ・ビデオアプリに搭載されている「顔変換フィルタ」みたいな能力ですか?


三葉 ええ、その通りです。

嘉村 ははぁ……。

三葉 その名も「幻想心眼(ファンタジー・フィルター)」!

嘉村 何やらそれっぽいネーミングですが……結局のところ、スマホアプリがあれば代替できる能力なんですよね?

三葉 そうですね。

嘉村 うーむ……。

三葉 主人公は「うわっ……オレの能力、これだけ……?」とショックを受けました。


嘉村 そりゃ、ショックを受けるでしょうねぇ。

三葉 主人公に能力を与えたのは、若い女神だったのですが……彼女は主人公の反応を見て、頬を膨らませました「何よぉ。不満なの?」。

嘉村 いや……不満でしょうよ。

三葉 女神は続けた「仕方ないでしょ!どんな能力を授けるかは、ダーツ的なもので決めるんだもん!」。主人公が訊く「えっ、『ダーツ的なもの』?」「まぁ、『ダーツ的』っていうかダーツそのものなんだけどさ」

嘉村 ダーツって……天界は「関口宏の東京フレンドパークⅡ」みたいなノリで能力を決めていたんですね。


三葉 そうですね。「チート!チート!」なんてかけ声がかかったりしてね。

嘉村 ふーむ。

三葉 主人公は唖然とする。一方、女神は不貞腐れてしまった「フン!ダーツが下手で悪かったわね!」。そして姿を消した。

嘉村 はぁ……。

三葉 とまぁそんなわけで、主人公は異世界に転生する前から、すっかり「生きる気力」を失っていたのです。

嘉村 なるほど。突然死ぬし、転生するし、能力はクソだし……踏んだり蹴ったりですもんね。「生きる気力」を失うのも無理ないなぁ。

三葉 さて……主人公は転生したものの、歩く気力すら湧いてこない。彼はその場に座り込みました。そして、家族のことを想う。学校の友だちや、密かに好意を寄せていたかわいいあの子のことを想う。最後に、何の役にも立たぬ能力のことを考える。……嗚呼、オレの人生って一体!いっそのこと、このまま野垂れ死んでやろうか。

嘉村 うーむ。

三葉 しかし……主人公は運がよかった。

嘉村 ほぉ。

三葉 すぐ傍に小さな村があったのです。彼は間もなく発見され、保護された。しかも、村人は総じて善男善女でした。彼らは主人公の身の上話を聞くと涙を流して同情し、「しばらくゆっくり休むといい」「辛いだろうが、元気を出せよ」「住めば都と言う。この世界も悪くはないはずだ」「落ち着いたら仕事を紹介しよう。手に職をつけておくと何かと便利だ」と世話を焼いてくれました。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公はしばらく村長の家に厄介になり、その後、村のパン屋へ引っ越しました。住み込みで働いて、製パン技術を学ぼうというわけです。

嘉村 なるほど。

三葉 そして……このパン屋というのが、じつに親切でしてね。夫婦で経営しているのですが、寡黙ながら心優しい旦那さんと、明るく朗らかなおかみさん。どちらも大変な善人でした。

嘉村 どこかで聞いたような……あー!「魔女の宅急便」で、キキが居候するパン屋にそっくりですね。


三葉 主人公は心優しき村人たちに囲まれ、穏やかな毎日を過ごしました。しかし……やはり「生きる気力」は失われたままです。いまでも2日に1度は、元の世界を夢に見る。そして、目が覚めると思わず泣いてしまう。

嘉村 ふーむ。

三葉 さて……そんなある日のことです。絵に描いたような平和な村に、大変な災難が降りかかった!すなわち、魔王軍の侵攻です。

嘉村 魔王軍!

三葉 そもそもこの世界では、人間族と魔族は対立関係にありました。しかしこれまでは、両者の生存圏が大きく離れているため、時々小競り合いが起きる程度だった。

嘉村 ふむ。

三葉 ところが先日、魔族内で権力闘争が勃発。これまでの魔王を「生ぬるい!」と断じた過激派が革命を成功させ、王位に就いた。かくして新魔王が宣言したのです「時は来たれり!いまこそ、人間族を滅ぼすのだ!」。

嘉村 なるほど。

三葉 魔王軍は、人間族の居住エリアに攻め入りました。その第一歩が、辺境の小さな村……すなわち、主人公のいる村でした。

嘉村 ふむふむ。

三葉 人間族と魔族……そもそも体の作りが違います。攻撃力、防御力、体力、いずれを取っても彼我の差は大きい。その上、魔王軍は鍛え抜かれている。士気も高い。したがって……村人たちは為すすべなく、殺されていきました。村のあちこちから悲鳴や怒声、そして魔族特有の甲高い笑い声も聞こえてくる。

嘉村 ほぉ。

三葉 そんな中でも、パン屋の旦那さんとおかみさんは冷静でした。2人は外の様子を伺い、すぐに状況を把握した。そして対応策を相談する。一方、主人公は怯えていました。膝がガタガタ震える。マジかよ……マジかよ!彼は放心状態です。

嘉村 ははぁ。

三葉 おかみさんが「しっかりおし!」と言って、主人公の頬をはたきました。次の瞬間、ちろちろ。主人公は小便を漏らした。

嘉村 ええっ……。

三葉 もっ、漏らした!いい年してお漏らしだ!……主人公は赤面する。おかみさんがくすりと笑う「顔を赤くするくらいだ。正気に戻ったね?」。主人公が小さくうなずく。「じゃあよく聞きな。いいかい。私らはこれから店を出て、馬小屋に向かうよ」。主人公は耳を疑った「うっ、馬小屋!?」。

嘉村 ほぉ。

三葉 馬小屋は村外れにあります。パン屋からは遠い。魔王軍が暴れ回る中、そんな遠くまで行くだなんて……。主人公の顔が引きつる「むっ、無茶ですよ!」。

嘉村 ふむ。

三葉 おかみさんは再び笑った「無茶は承知の上だよ。でもね、このままじゃ私らは犬死さ。犬死は嫌だろ?」。旦那さんが無言でうなずく。「馬小屋の馬に乗って街へ行き、この危機を国王軍に伝える。いいね?」「しかし……」「うん。あんたの言いたいことはわかるよ。街は遠い。国王軍が到着する頃には、村人は全員殺されているかもしれないね」「……」「でもね、他にないんだよ。他にないんだから、やるっきゃない。……そうだろ?ねぇ、あんた」。旦那さんが再びうなずいた。

嘉村 なるほど。

三葉 かくして3人のサバイバルが始まるのですが……何しろ、魔王軍は強い。まともに戦って勝てる相手ではありません。見つかれば、すなわち一巻の終わりです。したがって3人は辺りの様子を伺い、足音に注意を払い、物陰に隠れ、時には段ボールを頭からかぶってやりすごすなどして、慎重に馬小屋に向かって進みました。

嘉村 「メタルギア」シリーズみたいですね。


三葉 主人公はびくびくしながらも、どうにか2人の後をついていく。ところが……嗚呼、何たることか!道半ばにして、魔王軍と鉢合わせしてしまった!

嘉村 おー……。

三葉 しかし地獄で仏というか、不幸中の幸いというか……敵は1人。仲間から離れ、単独で行動していました。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は思う「いくら魔族とは言え、敵は1人。全力で駆け出せば、どうにか逃げ切れるのではないだろうか?」。しかし、旦那さんとおかみさんの考えは違いました。2人は一瞬で腹を決めた「戦うしかない!」。

嘉村 ほぉ……。

三葉 2人がそう考えるのも当然のことで……彼らが逃げ出せば、敵は追いかけてくるでしょう。そして「追いつけぬ」と判断すれば、仲間を呼ぶに決まっている。そうなれば、彼らが助かる見込みはありません。しかしいまなら、敵が1人だけなら……希望はある!

嘉村 なるほど。

三葉 戦いを決意した旦那さんは、素早くカバンを開け、中からパン生地を取り出しました。

嘉村 パン生地……?

三葉 ええ、パン生地です。旦那さんは、それを宙でくるくる回す。猛スピードです。生地がグングン伸びる。そして……彼はそれを敵に向かって飛ばした!

嘉村 ……ん?

三葉 薄く伸びたパン生地が、見事敵の顔面に命中。敵の視界を奪った!敵がパニックに陥る。その一瞬の隙を見逃さず、おかみさんが飛び出していった!彼女は両手に持っためん棒で、敵を殴る。殴る殴る!膝を集中的に狙う。一方の旦那さんは、すぐまたパン生地を回し始めた。そして第2撃!今度は敵の足元にパン生地が飛んでいく。敵はパン生地に足を取られ、その場に転倒。チャンスである。おかみさんは、ここぞとばかりに敵の顔面を殴り始めた。……とまぁこんな具合に、旦那さんが敵の動きを封じ、その間におかみさんが蛸殴りにする。夫婦の連携プレイが炸裂したのです。

嘉村 ははぁ……。

三葉 しかし……嗚呼、敵は強い!さすがは魔王軍です。おかみさんがいくら殴ろうとも、びくともしない。敵は予想以上に堅かった。これにはさすがの夫婦も動揺する。旦那さんが唇を噛む。おかみさんの額に汗がにじむ。

嘉村 ふむふむ。

三葉 やがて……おかみさんが叫びました「えーい、致し方がないね!さぁ、あんたは早く行きな!」。主人公がハッと我に返る。彼はそれまで、旦那さんとおかみさんの激闘をポカンと見つめていたのです。おかみさんが続けた「私らは、ここでコイツを1秒でも長く足止めしておくから、さぁ、早く!」。主人公は頭を抱える「そんな……ダメですよ!一緒に行きましょうよ!」。おかみさんは笑った「時には諦めも肝心さ。あんたは必ず馬小屋にたどり着き、そして街に行っておくれ。約束だよ!」「でも……でも!」。2人は敵を仕留められぬと察し、ここで死ぬ覚悟を決めたのでしょう。主人公はうろたえる。彼らを見殺しにして、自分だけ逃げるだなんて……そんなのできっこない!

嘉村 ふむ。

三葉 その時です。狼狽する主人公を、旦那さんがグイと掴んだ。そして宙でくるくる回し……放り投げた!主人公が猛スピードで空を飛ぶ。おかみさんが叫んだ「よろしくねー!」。

嘉村 ほぉ。

三葉 こうして、主人公の1人旅が始まりました……が!しかし、彼は「生きる気力」を失っています。「何が何でもやってやるぞ」という覇気なぞ湧いてこない。とにかく怖い。恐ろしい。唇がプルプル震える。女神から授かった能力「幻想心眼(ファンタジー・フィルター)」を使って、どうにか気を紛らわし、恐る恐る進んでいきます。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は、その後も何度となくピンチに陥りました。そして時には絶望し、死を覚悟するものの……絶体絶命の危機に置かれたことで、やがて彼の中の「本能」が目を覚ました!彼は思う「オレは絶対に生き抜くんだ!旦那さんとおかみさんの分も……生きるんだ!」。まさにこの時、彼は「生きる気力」を取り戻したのです。

嘉村 なるほど。

三葉 生まれ変わった彼は多くの困難を乗り越え、馬小屋に到着。そして街に向かいました。……で、物語は幕を閉じます。

嘉村 ふむ。

三葉 以上、「『ゼロ・グラビティ』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「ゼロ・グラビティ」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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