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Photo by
snafu_2020
桜とブロック
今はブロック塀の家が随分減ったけれど、自分が子供の頃はブロック塀が普通だった。特に家の辺りは昭和の建売住宅地だったから、みんな同じブロック塀で囲われていたのである。
幼い頃には近道と称して、この塀の上を歩いて移動した。そうして歩くのはよその塀の上なので、今振り返ってみると、よく怒られなかったものだと思って腹の中がもわもわする。
他人の塀を歩くぐらいだから自分の塀も歩いた。家は区画の角にあって、歩いたってどこへ近道になるわけでもない。ただ探検ごっこの一環で、歩いて遊んでいたのである。
ある時やっぱり自宅の塀上を歩いたら、庭の木の枝が外へはみ出していて、そこから先へ進めない。避けて行くのはどうも無理なようだから、枝を折って行き、塀の端でとび下りた。
翌日祖父が「枝を折ったじゃろう?」と怒ってきた。横から祖母が、「あの木はねぇ、きれいな花が咲くんよ」と言った。
自分は庭の花なんて別段興味がないから、どんな花が咲くかなんて知らない。きれいな花が咲くと聞いたって、やっぱり一向興味はない。
この祖父母は元来母と折り合いが悪かったものだから自分もあんまり馴染みがない。だからというわけでもないけれど、怒られても謝ろうとは思わないで、「折ってない」と云った。しかし他に塀の上の枝を折る人なんてあるわけがないので、嘘をついているのは明らかなのである。
祖父は嘘については何にも云わず、「まったく」とか「折りよって」と枝のことばかりをぶつぶつ繰り返した。
花のことはその後も一向気にかけずにいたけれど、数年経って祖父が亡くなった後、四月にピンクの花が咲いているのに気が付いた。どうやら桜の木だったらしい。
なるほど確かにきれいな花だと感心した。
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